ギリシャ議会での緊縮案合意による当座のEU残留合意、ならびに国策による上海株式相場の下値維持により為替市場は次なる材料物色に動いています。
引き続き「円安ドル高」が進行しやすい状況には見えるものの、今後相場では円安を支援してきたファクターに変化が見られるようになってきており、一方的に円安が進むかどうかは微妙になってきています。今回の記事では、そうしたファクターについて見ていくことにします。
GPIFのポートフォーリオ変更は順調に推移
7月10日に遅まきながら発表されたGPIFの運用状況によると、今回から導入したポートフォリオ変更は既にかなり達成されつつあり、国内債の残高は1-3月に約2.9兆円減る一方、国内株は約4.3兆円、外債は305億円、外株は約2.9兆円増えています。
昨年10月末の新資産構成の発表前から、目標値までの進捗率は国内債が67.2%、国内株が58.4%、外国債券が25%、外国株式が48.8%となってきています。
発表されているのは昨年度末までで、4月以降も積極的に国内株などの購入が進んでいますので、8%程度のアローアンスを考えると国内株はかなりいい線まで買われていることがわかります。
株価の話は株式売買のコラムにお譲りすることとして、GPIFで注目に値するのがこの間のドル円の購入です。
2014年10-12月期には6兆円、翌1-3月には3兆円を市中から調達してきたドル円もこの調子でいくと為替購入のボリュームは急激に減少することが見込まれ、これまでドル円を下値で買い支えてきたGPIFは早晩姿を消すことが予想されます。
もちろんKKRなど公務員共済がある程度支えることは期待されますが、規模感の違いは免れず、少なくともPKOによるドル円の買い支え規模は減少を予想しておく必要がありそうです。
イランの核合意で下落しそうな原油価格
もうひとつ気になるのが「原油価格」の動向です。
WTIで「1バレル40ドル」近くまで大幅下落した原油価格は、一旦価格を戻す動きとなっています。
レイムダック化するオバマの事実上最後の仕事とされている、イランの核合意による同国の原油生産輸出再開は、再度原油市場の需給バランスに影響を与えそうな状況で、こちらもドル円の動きに少なからず影響を与えることになりそうです。
「東日本大震災」以降、日本の貿易赤字は、最大13兆円程度の赤字を維持し続けてきました。これは確実に13兆円分ドル円の買い越しを引き起こしてきたもので、円安ドル高を実需として大きくサポートする要因となってきました。
しかし直近では、この貿易赤字は原油価格の下落で大幅に改善することとなっており、実需面での円安サポートが切れることは間違いない状況です。
よく為替はテクニカルであるとおっしゃる方もいますが、実際の為替相場は実需と各国の金利動向がもっとも影響を与えるものとなっており、日本の貿易赤字の解消がドル円に与えるインパクトはかなり大きなものとなることが予想されます。
少なくとも月間で1兆円を超える買い越しがなくなるということは、これまでのような円安を維持できない可能性を高めることになりそうです。
原発再稼動が実現すればさらに貿易黒字示現も
ことの良し悪しは別にして、政府が進めている原発再稼動が実現することになると、さらに貿易赤字の縮減が進むこととなり、逆に黒字化が示現する可能性が高まることから、年明け以降は円高をサポートする要因になりそうな状況です。
原発に関しては地元住民の頑強な抵抗もありますから、国が考えているほど簡単に再稼動するかどうかは分かりません。
しかし、原発をゴリ押しすれば円高に戻る可能性はかなり高く、現政権はこれまで進めてきた金融緩和による株高、円安政策を自らの手で頓挫させかねない状況に直面しつつあるといえます。
米国年内利上げも規定路線となっているが、異論を唱える向きも依然顕在化
6月末に米国債等を大量購入して利益を上げたダブルラインキャピタルの「ジェフリー・ガンドラック」はニューヨークで開かれたCNBC主催の会議の席上、米当局が時期尚早に利上げを開始すれば、再び引き下げを余儀なくされるであろうと指摘して、年内利上げの可能性を否定し注目を集めています。
FOMCメンバーによるドットチャートの予測といったFRBの見通しは、これまでほとんど外しており、経済がFRBの予想通り成長すれば年内利上げというメッセージは、単なる希望的観測であると指摘し、これまで年内利上げ可能性50%としてきたものを、利上げなしと見込み始めているようです。
全般的に円安を支援する材料が減るなかでどう推移するのか?
毎日のように相場に向き合っているトレーダーの発想から言えば、先般の中国の上海株危機でも120円を割り込まなかったドル円
が・・こうしたファクターだけで簡単に下方向に動くとは思い難い気分になるのは大変よくわかります。
が・・こうしたファクターだけで簡単に下方向に動くとは思い難い気分になるのは大変よくわかります。
しかし、為替をとりまくファクターは人為的にかなり変動するものであり、何よりも相対的に状況は変化するという事だけは忘れてはなりません。
「絶対」という思い込みが危ないのがFXであり、常意に動きと逆方向のエレメントについても意識しておくことが必要になるのです。
そういう意味では、本日ご紹介したファクターが「逆方向」に動き出すトリガーになってもおかしくはない状況といえるのです。
(この記事を書いた人:今市太郎)