ロイターの報道によりますと去る6月29日、ダブルライン・キャピタルのCEOでビル・グロスを超えた新債券王として名高い「ジェフリー・ガンドラック」がギリシャとプエルトリコの債券危機の動向を睨んで26日に大量の米国債と連邦政府抵当金庫のモーゲージ担保証券を購入して話題となりました。
当初から織り込んでいたのかどうかはわからないものの、その後の中国上海市場の猛烈な下落も手伝って、見事に同氏の相場の読みが当たることとなり、この1週間足らずで実際にかなりの利益を獲得することとなっています。
投資視点のポイントは「金利低下に賭けるポジションをとった」ことで、ガンドラックは驚くほどの勝ち戦を継続中です。
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新旧「債権王」の投資行動の違い
一方、ガンドラック同様に早くから相場の偏重を察知し「深セン創業指数」の天井時期に売りを推奨した「債券王 ビル・グロス」もドイツ国債の金利暴騰に引き続いて相場の転換点を当てています。
しかし、こちらは残念ながら今回S&Pを売っただけであり、自身のビジネスでは大きな利益を引き当てることができていない状況です。
こうしてみてきますと、その結果は新旧の債券王のリアルなアクティビティに大きく違いがでていることがわかります。予想だけ的中してもそれを増幅させる適切な投資行動をとっていないと、プロと言えども儲からないという・・なかなか厳しい成果の違いを見せつけることとなっており、新旧債券王のこうした違いも市場の話題になっています。
これに先立つ6月初旬、ビル・グロスを追い出した債券売買の大手であるPIMCOが買い持ちしていた、米国債の7割近くを5月末に売却していたことがわかり、相次ぐ大型プレーヤーの市場からのファーストアウト状態で「なにか異変がおきるのでは?」という噂も高まっていた矢先・・ダブルライン・キャピタルのまったく逆の動きでガンドラックの市場目線に再度注目が集まり始めているのです。
また、ガンドラックは7日のWEB放送にも登場し、ギリシャがスローモーションでユーロ圏を離脱するとの見解を示しています。
8日のロンドン市場ではギリシャとEU圏との合意を見るとの期待から為替相場は大きく買い戻されていますが、ここで一旦夏を乗り切る程度の合意が形成されても本質的に抱えるギリシャのイシューが解決したわけではなく、ガンドラックの見解には注目が集まるところです。
また、ガンドラックは中国株の力強い上昇がすぐに戻る可能性は低いとも予想しています。
今なぜ債券市場に注目するのか?
ところで為替をやるトレーダーがなぜ債券王の動きに注目しなければならないのかと疑問に思われる方も多いことと思います。
米国の過去3回に及ぶQEの結果、市場の資金流動性は驚くほど高まり、本来は逆相関になるべき株と債券の動きが同一方向になり、しかも為替も一緒に同じ方向に動くといった市場原理を無視したマーケットの動きが長く続いてきたわけです。
しかし、ECB のQEを受けて4月ごろからドイツの金利が大幅上昇するようになってから、市場の相関性、逆相関性が徐々に昔に戻ろうとしていることを多くの市場参加者が感じ始めているのです。
つまり為替はもっとも相関性のつよい債券金利と連係して動くようになっているからこそ、債券金利や売買動向に為替関係者の注目が集まるようになっているといえるのです。
「債券相場は軽くみても為替市場のほぼ2倍以上の規模」があり、4月のユーロ圏債券の暴落と金利上昇。特にドイツ10年債の1%までもの金利上昇は、多くの金融機関に含み損を抱えさせることとなり、6月にその損失補てんのために、主要国の株式が一斉に売られ株価が低迷したことは記憶に新しい状況です。
度重なる各国のQEで既にまともな市場を維持できていない債券市場
米国の利上げも始まっていませんし、QEが終焉したといっても資金が市場から引き上げられているわけではありませんから、世界的には資金の流動性は一定以上に保たれているはずなのですが、この間の過剰とも思える米国QEに加え、日本と欧州圏がQEに参戦したことで、債券市場はもともとの健全な市場原理を完全に崩壊させてしまった感があります。
たとえばジャンク債市場は「ハイイールドボンド」などと名づけられて投資信託に組み入れたれていますが、相場に一定以上の流動性は保たれておらず、何かのきっかけで売りが加速しても満足に売れない状況が続いているのです。
これは国内市場における JGB の動きもまったく同様でいまどき国債を買っているのはBOJだけという不思議な相場状況が今も粛々と続いています。こうしたことから4月のドイツ国債の暴落と金利暴騰では既にマーケットメーカーすら存在しないため、適正な金利水準がどこなのかヘッジファンドでも判断できないといった異常事態が示現しはじめています。
債券市場の偏重は明らかに為替相場に影響を与える猛烈なドライバーとなってきているのです。しかも米国市場ではハイグレード債(適格債)から売りがではじめており、すでにテーパータントラムの足音すら聞こえ始めている状況です。
米国の利上げまでは丹念に債券相場をチェック
為替市場ではさまざまなテクニカルツールが利用され、それなりにワークし続けていますが、それとともに常に気をつけるべきなのが「債券金利」の動向となっています。
特にドイツの10年債と米国の10年債の利回りはリアルタイムでチェックできるルートを確保しておくことは必須であり、そのためだけでも新たにネット証券に口座を作るぐらいの努力を惜しまないことをお勧めしたい状況です。
テクニカルチャートだけでは「だましか?本物か?」の見分けがつかない状況に陥っても必ず相場の先行きを照らしてくれる存在となっているのが債券金利なのです。
これは7月第二週の中国関連、ギリシャ関連の相場の動きとともに、債券金利の動きをトレースしてみますと非常にその意味がよく理解できるものとなります。
(この記事を書いた人:今市太郎)