8月、例年為替の関係者から口をついてでてくるのが「ドル円の円高が強まる時期」という発言です。
実際2000年から2014年までの15年間を調べてみますと、月初のドル円相場が月末に上昇したか下落したかでは10対5で円高になるケースが多いことに気づかされ、このアノマリーもまんざら嘘ではなさそうな雰囲気となっていることがわかります。
【アノマリーとは?】
アノマリーとは金融相場の世界において、一定の規則性があるように思われるにも係わらず、経済的合理性ではその説明ができない現象のことをいいます。⇒ 詳しくはこちら
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しかし、この円高というのも月間の結果であって1ヶ月間一貫して円高方向の動くわけでもないため、なかなかその判断が難しい部分でもあるのです。
2012年からの円安トレンドでは8月でも円高にはならない
この15年を見てみますと顕著なのが、2011年までの円高局面にあった時には、とにかくアノマリーどおり月初に比べて月末が円高になった年が多かったということです。
ただし、月間で円高であっても毎日の相場では高値の時期もあり、円高だからどこでも売りから入れば必ず儲かったかといえば必ずしもそうではないことがわかります。
年によっては月初よりも3円(300pips)近く上昇し、月末に下落するというケースも多く見られますから、闇雲に円高と思うのは大きな誤解といえそうです。
また逆に円安に振れた年でも始値以下の安値をつけているケースもありますから、あくまでチャートをみて判断していく必要があることを、あらためて思い知らされる結果となっています。
特にアベノミクスが始まり、日銀が一貫して円を切り下げるオペレーションに出てからは、円高の局面でGPIFなどが外債購入のために月間で1兆円以上の円売りドル買いに動いてきており、下値がかなり堅い状況が続いたことは間違いありません。
その傾向は8月でもここ2年は変わらないことが見て取れます。
過去には米国債の利払いも影響したが・・
これまで8月の「円高アノマリーを裏付ける」ものとしてよく登場してきた理由が2つあります。
1つは、8月は夏休みで市場参加者が少なく、しかも国内系の輸出メーカーなどは8月の初旬から10日近く上値に大量に売りを指値でおいたまま夏休みに入るためそもそも上昇が損なわれるということがあげられてきました。
2つ目は、8月は米国債の利払いがあり円転してその収益を回収するために、円高になりやすいという説も有力でした。しかしこの2つは実に刹那的な話であり、実際には市場を動かす大きなファクターとはなっていないようです。
東京市場でドル円と連動感の高い日経平均の動きは8月顕著なものに
一方、東京市場ではドル円に大きな影響を与え続けているのが日経平均の動きです。
最近では海外の投機筋が日経平均の買いにあわせてドル円をヘッジで買うことをしなくなっていますので、上昇に連動感は感じられなくなりつつありますが、確実に連動するのは日経平均が下落する局面となります。
2010年から14年までの5年間で見ますと、8月というのは2012年以外は日経平均は下落しており、ドル円がこれに一定期間追随するとすれば、月間の中でドル円が円高に動く可能性は高くなることが示唆されています。
日銀がQEをはじめた2013年以降でみても、PKOなどの下支えがあっても下落傾向が顕著にでていますから、ドル円に一定の影響がでることだけは間違いがなさそうな状況といえます。
米国大統領選挙前年の今年はその影響も考慮が必要
ただ、例年の円高アノマリーのファクターは説得力がないものとなっているものの、米国の大統領選挙とその前後の年は為替に政治的な影響がでる時期になっていることは間違いありません。
photo:ロイター
これはeワラント証券がまとめた過去の米国大統領選に絡む円相場のサイクルですが、毎回選挙の前年からその影響が出始めるようで、とくに8月というのは円高に動きやすいことがわかります。
こちらはアノマリーというよりも過去何回かの大統領選挙に明確に現れている流れであるため、今年や来年などは非常に意識される内容であることといえます。
月間の平均騰落率でみますと8月に円高に振れたものは9月にさらに加速していることがわかります。
毎年円高かどうかを見るのに比べ間がかなり開いている話ですから、しっかりとした兆候はこれまで認識されてこなかったことではありますが、FRBの利上げ同様共和党はかなり円安ドル高に強硬な姿勢をとりますので、こうした動きが今年からではじめることには注意が必要となりそうです。
8月円高説は決定的アノマリーとは言えないものの・・
こうして見てきますと、8月だから円高というのは過去15年で見れば7割ぐらいの確率ではあるものの、日銀のQEスタート後2年間はその動きにはなっておらず、8月円高説を決定的アノマリーとはなかなか呼べない状況です。
ただ、それ以外にも実に様々な要素がドル円を円高に動かそうとする月であることは確かなようですから、押し目を買うという点では絶好のチャンスが到来するともいえそうです。仮に月間で円高に振れなくても、十分に下値を拾える可能性のある月が8月なのです。
特に昨年までの過去15年間でみますと8月の始値よりも月間の最安値はすべて下にあり、月間の騰落率がどうであれ、必ず円高局面が訪れていることだけは確かな事実となります。少なくとも8月は円高からの反転期待の逆張りをするなら絶好の機会が到来するとみることができそうです。
特に2013年、および2014年についてはドル円は月間3円以上の上下がありますので、下値狙いはその後の大きな利益確保につながる可能性も高くなるといえるのです。
(この記事を書いた人:今市太郎)