9月は北半球では8月が夏休みであることから、休み明けの中央銀行の政策決定会合が非常に多く開催される月となっています。下の表でも主要国では12か国の中央銀行が今月政策決定会合を開き、政策金利の変更か現行維持かを決定していくことになります。
すでに今月は半分経過しており6か国の中央銀行が政策決定を発表しており、残り半月でも日本や米国など主要国の政策決定が予定されています。
この一覧を見ますと世界情勢の詳細というものが非常によくわかる状況となっていることから、今回はそんな各中央銀行の政策決定内容に注目しながら「世界の経済情勢」を確認していくことにいたします。
RBA/オーストラリア準備銀行
9月の主要国の政策決定会合としてはトップバッターの位置を占めるオーストラリア準備銀行は4日、政策金利のオフィシャルキャッシュレートを過去最低の「1.50%」に据え置くことを決定し、この金利据え置きはすで3年目に突入することとなりました。
かつては高金利通貨国ということで日本人投資家からも豪ドル預金などが積極的に行われてきましたが、足元ではすでに政策金利は米国よりも低い状況で、しかも中国経済に非常に大きな影響を受けるのがこの国の特徴となっているだけに、今後金利を上昇させる方向に動くのかどうかが非常に注目されるところです。
政治的には政権が頻繁に後退するなど見かけ以上に結構ラジカルな国になっています。オーストラリアのGDPは27年連続でリセッションなしの状態が続いており、中国の影響は受けるものの引き続き堅調な状況が続いていることが窺われます。
したがってまだ当分は長期にわたって金利が据え置かれる状況が続きそうです。
カナダ中銀
米国に隣接しNAFTAの交渉では大もめにもめているカナダのカナダ中銀(BOC)は5日、政策金利を市場の大方の予想通り1.50%に据え置いています。
ただ、インフレ目標を達成するためには一段の利上げが必要になるとの認識を示したことから10月の金融政策引き締め観測が強まっています。カナダのインフレ率は7月に年率「3.0%」と、先進国の中でもかなり高く約7年ぶりの水準に上昇しています。
ただその中味を見ますとガソリン価格の上昇の影響が薄れるにつれ、インフレ率は19年初頭には2%に向けて低下する可能性が強く、やはりそれほど大きなインフレは示現しないことを示唆しているだけに10月に金利上昇が実現すればそれ以降の利上げはそれほど早まらない可能性がでてきています。
米国と隣接するだけに米国経済の状況に非常に影響を受けるカナダですが、NAFTAで締結される内容次第ではまた状況変化することも考えられそうです。
スゥエーデン中銀
スゥエーデンはEU加盟国ではありますが独自通貨であるスゥエーデンクローネを利用しており、欧州圏ではFXでもそれなりに取引するユーザーが多い国として知られています。
そんなスゥエーデンは日本ではあまり注目されていませんが、スウェーデン中央銀行は6日、政策金利の据え置きを発表しています。同国はECBの政策以上に金利の引き下げを継続中で今も「-0.5%」で据え置きの状況が続いており、10月も利上げはしないことが既に表明されています。
ただし、世界の主要国ならびにECBが金融緩和の出口戦略に動き始めていることから12月もしくは2019年2月には「0.25%」の利上げが想定されていることも示唆しており、いよいよこの国もマイナス金利から脱する動きが始まりそうな状況です。
トルコ中銀
13日は3つの中央銀行が政策決定会合を開催しましたが、その中でももっとも注目されることとなったのがトルコ中銀の政策決定会合です。
もともとエルドアン大統領が利上げに強硬に反対している中にあって、物価上昇率を超えた利上げを実現できるのかどうかに非常に市場が注目することとなりました。
事前に同大統領のけん制発言でトルコリラが大きく下落したものの、トルコ中央銀行は政策金利である1週間物レポレート「TRINT=ECI」を「17.75%」から市場の事前予想を大幅に超えて「24%」に一気に、「6.25%」ポイント引き上げております。
さらに必要なら一段の金融引き締めを行うと表明し、中銀としての独立性も強く訴求したことから、「トルコリラ」は主要通貨に対して大きく上昇することとなり対円でも大幅な上昇を示現することとなりました。
これで一旦は目先のトルコリラの下落は止められることになるものと思われますが、政策金利が24%となったことで、ますます自国経済に与える影響が大きくなっただけに、先行きまたしても主要通貨に対して売られるリスクが残ることとなっており、本質的な問題解決からは程遠い状況が続きそうです。
※トルコリラ円1時間足
ECB/欧州中央銀行
ECBは言わずと知れた欧州中央銀行ですがECBは既に前回の理事会において利上げは2019年の秋としており、資産買入れは年内終了を確認いますので、今回の会合では大きな変化はありませんでした。
今回の理事会では、毎月の債券買い入れ額を10月から150億ユーロに半減させることを正式に決定しており、ECBの緩和からの出口戦略は粛々と進む状況になっています。
同時に、債券買い入れ策を年末までに終了させることも正式決定で、緩和終了の軌道はそのまま貫かれていることが確認されました。
ただドラギ総裁が会見で欧州経済の潜在成長力やインフレ見通しに強気な姿勢を示したことからユーロが買われる展開となっており、今後ドル安が進むことになればユーロがあらためて市場を先導していく通貨となることも期待されます。
BOE/イングランド銀行
イングランド銀行は13日にMPCを開催し、政策金利は0.75%のまま据え置きを決定しています。
英国は中銀の政策決定もさることながら来年3月に期限が迫りつつあるBREXITに関しどのような形での離脱が決まることになるのかに非常に市場の関心が高まっており、それ次第でポンドは買い戻されたり売られたりという思惑による市場が展開中です。
足元ではEU側が歩み寄るような動きも顕在化していますが、無条件の離脱が表明された場合には、激しくポンドが売られることになり他国の通貨にも相当な影響を及ぼすことになりかねず、ここからは当面中央銀行の政策決定よりも英国政府のBREXITに対する対応に大きな関心が集まりそうな状況です。
月後半からはさらに日米主要中銀の発表も
ここまで9月に予定されている中央銀行・政策決定会合の半分が政策を発表していますが、今月後半には日米の中銀の政策決定発表が行われることから注目度はさらに高まりそうです。
FRB/FOMC 26日
重要度から発表日の順番とは異なりますが、後半でもっとも注目されるのは米国FOMCの政策決定会合です。既に9月の利上げ0.25%は完全に市場に織り込まれていますので、注目はそれ以降とくに来年の利上げペースがどうなるのかに大きな関心が集まりそうです。
米国FRBが金融緩和から引き締めへと動き、さらに金利を継続してあげてきている状況は世界経済に非常に大きな影響を与えることとなっております。
とくにこれまで日米欧3つの中央銀行により実施されてきた「金融緩和」は過剰ともいえるほどの流動性を世界に波及させたことから、その巻き戻しタイミングにあたっては多くの資金が米国に回帰しようとしています。
新興国経済はとくにその影響を大きく受けており、トルコリラをはじめとする新興国通貨も対ドルで軒並み安の展開となっていることから、今後の米国の利上げ政策の中身は現実的に大きなインパクトを与えそうで、目が離せない状況が続きそうです。
トランプ大統領はすでにFRBに対して拙速な利上げをやめるように希望とも要望ともとれる発言をしていますが、パウエル議長がこうした声に忖度するのかどうかも依然注目が集まっています。
米国はすでに完全雇用という状況下において大規模な減税を実施しおり、しかもトランプ政権が中国、ロシアをはじめ、同盟国にまで高率の関税をかける動きを見せていることから、消費者物価の上昇はほぼ避けられないところに来ているわけですから、今後のFRBの利上げペースは世界の非常に広範なマーケットにきわめて大きな影響を及ぼすことが予想されます。
ここからの世界景気は米国の金融政策次第と言っても過言ではないところに差し掛かっている点は充分に認識しておく必要がありそうです。
日銀政策決定会合 19日
開催日は相前後しますが先進国中依然として緩和を続ける唯一の存在となっている日本の日銀の政策決定にも注目が集まりそうです。
自民党総裁選における討論会の席上、安倍総理がいつまでも緩和を続けるわけにはいかないとして向こう3年以内の緩和の終了を示唆したことからドル円は一時円高方向に動くという場面も見られました。
しかし、実際IMFなどがレポートにも指摘しているように日銀の国債買い入れという緩和措置が3年以内に終了するとなると世界経済に与える影響もかなり大きなものになるため、ここからは日銀の動向にも非常に関心が高まることになりそうです。
これまで日本については引き続き緩和を継続すると見られていたところに安倍総理自身の口から緩和の出口を示唆することが語られた点は非常に大きなポイントとなっており、日銀政策決定会合で相場が荒れることも考えられます。
その他五か国の中銀政策決定会合も開催予定
9月はさらにスイス国立銀行、南ア中銀、ノルウェー中銀、ニュージーランド中銀などの政策決定会合が予定されています。
こうした国は米国とECBの政策に非常に大きな影響を受ける存在だけに、やはり注目は米国、ECB、日本の政策決定会合の内容がどの方向に進んでいくかが大きなポイントになりそうです。
とくに新興国で高金利通貨でなじみの深い南アの政策金利がこの先どうなっていくかにも市場の大きな関心が集まるところです。
リーマンショックから奇しくもちょうど10年の歳月が経過したことになりますが、世界の総債権総額はなんと2京7000兆円にまで膨れ上がっており、世界GDP年間総計8000兆円のほぼ3倍以上の借金でむりやり成長を作り出している点が非常に危惧される状況です。
つまり借金で作り出されているのが足もとのGDPの総計ですから、今後主要国を中心にして政策金利が常勝し、それに対応して自国通貨を守るために新興国の金利が大幅に上昇するというかてでは、ここに挙げた総負債総額に対する金利負担が大幅に上昇することを意味するだけに世界経済はまさに金利の動向次第と言っても過言ではないところに差し掛かっていることがわかります。
それだけに先進主要国である米国と、EU,日本といった国々の中央銀行による金融政策、とりわけ金利政策は今後も非常に大きな関心をもって注目されていくことになりそうです。
ひとつひとつの中央銀行が発表する内容次第で、為替市場はこれまで以上に敏感に反応する相場展開が継続することは間違いなく、我々個人投資家としても常にそのタイミングと内容を把握するように努めることが必要です。