2015年金融市場で最大のイベントと言われ続けているのが「アメリカの利上げ時期」についてです。
これは単に一回だけ利上げが行われるのではなく「ゼロ金利政策の終焉」を意味することから、これまで驚くほど市場流動性を維持してきた,
金融緩和の本格的な終わりを示すものとして非常に注目されているのです。
既に半分が終わってしまった今年ですが、一体いつになったらアメリカは利上げするのか?の予測が市場を賑わしており、利上げ予測と要人の発言に為替相場も一喜一憂する状況が続いています。
FRBの政策は雇用指標に大きな影響を受けている
イエレンFRB議長は労働問題の専門家であるため、これまで以上に雇用データを基本にして利上げ時期を慎重に勘案するようになっています。
毎月、第一金曜日に発表されるアメリカの「雇用統計」は既に「NFPも20万人を」切れなくなり、「失業率も5%台」を堅持しています。ですから、本来なら4月以降どこで利上げに踏み切っても大きな遜色のない状況が続いているといえます。
失業率の低下に寄与しているといわれる「労働参加率」の推移は下げ止まってはいるものの、向上はしておらず、オバマケアの影響で正規雇用に歯止めがかかってしまったことから、賃金の伸びも予想以上に低いまま推移しています。
このことが、FRBの利上げを踏み切れない大きな要因になっているともいえます。
レイ・ダリオの発言も大きな重し
今年3月、世界最大級のヘッジファンドであり、過去30年間において数百兆円の利益を収めている、「ブリッジ・ウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ」が、今は1937年と同じと発言しました。
米国は利上げを急ぐべきではないとの見解を示し、利上げをすれば1937年~1938年の再来になる可能性があると強く警告していることもFRBに大きな影響を当たえていると言われています。
この「レイ・ダリオ」はテクニカルのヘッジ取引ではなく、独自の計量経済学モデルで勝ち進んできている人物で、2008年のリーマンショック直前にも金融当局にそのリスクを訴えたものの、誰にも聞き入れられず大きな暴落が起きてしまったという経緯のある人物です。
当然、本人はリーマンショックを回避し、その後も大きな利益を確保して今日に至っていることは有名な事実となっています。
Photo: Bloomberg
さらに「レイ・ダリオ」は自らの顧客宛に今年は大きな投資を行わない旨の告知を自社のレポートで提示して話題になっています。
そこいらの解説学者が経済危機を訴えるのであれば、たいしたインパクトはありませんが、過去30年に渡って米国で最も利益を確保してきた人物が「相場から早々と撤退して様子をみる」と言い出している点は見過ごすことのできない状況になっているわけです。
これは、FRBで投票権をもつ地区連銀の総裁にも、大きな影響を与える結果となっています。
市場では単なる米国の利上げと理解している向きも多いようですが、長く続いた金融緩和政策の終焉を意味しており、どのぐらいの利上げが世界中の市場にどのぐらい影響を与えるのかFRBも市場関係者も分からないとすると、「レイ・ダリオ」の警告はきわめて重い影響を与えているといえます。
ローレンス・サマーズの長期停滞論が再度クローズアップされる状況に
現在の FRB は「スタンレーフィッシャー」を頂点としたMIT学派により形成されていると言われています。これはかなり狭いMIT人脈によって中央銀行の派閥が形成されているからです。
元々MITの教授であった「スタンレーフィッシャー」の教え子が前FRB議長の「バーナンキ」であり、ハーバード大学の学長を勤めたクリントン政権の財務長官であった「ローレンスサマーズもフィッシャー」の教え子なのです。
またECBの「ドラギ総裁」も、フィッシャーが博士号の指導教官をしており、実はFRB、ECB共にこのMIT学派がかなり幅を利かせている状態が続いています。
このMIT人脈の中で、最も政策的に影響を与える存在となっているのが「ローレンス・サマーズ」であり、彼の持論である「長期停滞論」が注目されているのです。
サマーズによれば、先進国全体で完全雇用を達成する経済成長と金融安定の両立が困難になっており、その大きな原因として貯蓄と投資のバランスが崩れ、完全雇用に見合う均衡金利が著しく低下したためであるとする仮説をぶち上げているのです。
この長期停滞論に関しては、前FRB議長のバーナンキが自らのブログで疑問を投げかけており、ここ数ヶ月サマーズと、さらに外部の人間を巻き込んで大論争になっています。
ご興味のある方は以下ご覧ください。
イエレンの見識は180度転換
これまで長期停滞論と一定の距離を置いていたイエレン議長が春先以降、この発想に準じた発言を随所でし始めているところも気になるところです。
イエレンFRB議長は2014年12月17日の記者会見の時点では、サマーズのいう長期停滞が存在するとの見方はFOMCにはないと発言していました。
しかし、2015年3月27日の講演では見識を豹変さて、サマーズの長期停滞論をリスクシナリオの筆頭にあげ始めているのです。
これはどうみてもBehind the Curveを示唆するものであり、ギリシャ問題、中国バブルのリスクを加味すれば、簡単に利上げができない状況を示現しはじめているとも言えるのです。
大統領選挙を意識して年内ぎりぎりにアリバイ的な最小限の利上げか?
ただ、現状のゼロ金利政策というのはイレギュラーな政策であったことは確かで、2016年の大統領選挙を前に共和党からもまともな状態に戻すようにとの圧力が、かなりFRBにかかり始めていることも見逃すことはできません。
また、まさかの時に再度「ゼロ金利政策」に戻すためにも一旦利上げをしておく必要があるという見方も根強く、9月になるのか12月になるのかは依然不明ですが、最低限の利上げ、たとえば0.125%だけアリバイ的に一度実施して今年は終了という可能性も高まっているといえるのです。
ただ、一度利上げが実施されれば、その利率そのもの以上にさまざまな金融市場に対する巻き戻しが始まることも予想され、多くの投資市場での成功者が身構えるような、これまでにない動きが示現することには注意が必要な状況になってきていると言えます。
この7月から「ボルカールール」の完全適用も含めて、新興市場やジャンク債などのリスク市場からの金の流出といった、新たな流れが加速しないかについては、神経質に状況を確認することが必要となりそうです。
米国の利上げ時期を巡っては、この秋口も延々とその予測と要人発言で為替は上下に振れそうな気配ですが、利上げの本質的な影響という部分については、我々個人投資家の想定を超えるような動きが出る可能性もあります。
相場の変化に注視し常に気を抜かずに、チェックしていくことが必要な向こう半年となりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)