当初為替には殆ど影響を与えないと言われてきたシリアの難民問題ですが、ロシアが空爆に参加してくるなど、えらくキナ臭い状況になってきています。
難民に対応するユーロ圏各国の動きはバラバラになり始めており、既に安全保障の大きな問題になりかけていることは間違いなく、為替相場にも一定の影響が出かねない状況へと深刻化していることがわかります。
シリア難民流入は予想以上の規模に
9月に欧州統計局が四半期難民・亡命希望者・移住者に関する報告書を発表しています。
その内の「主要6カ国」のうち断トツの状況となっているのが「シリア」です。
現状でシリアからの難民数は人口の約2割に匹敵する400万人と見られていますが、そのうち現状で把握できているのは16万人足らずであり、実は少なくともその20倍以上が欧州へ押し寄せようとしてきているわけです。これは、未曾有の事態が起ころうとしていることが分かります。
しかも、今後のシリア情勢の悪化は更なる難民流出に繋がろうとしているのです。
欧州各国は難民問題で大きな財政負担を強いられることに
ドイツ政府は2016年度の予算案に「難民対策費」として60億ユーロの追加歳出を決定しています。
しかし、今年7月から9月末までのわずか3ヶ月の間で、ドイツへ入国した難民の中で失業者手当ての補助金を申請したのは43万6,000人に膨れ上がっているため、この調子でいけば到底この予算では足りない状況がやってくることになります。
深刻なのは東欧諸国や南欧の豊かではない諸国であり、財政支出の悪化は免れず「EU」が定めている「財政規律の遵守」から逸脱する国も登場することが危惧され始めているのです。
当初、為替にはほとんど影響がないと思われていたシリアの難民問題ですが、その根は想像以上に深い状況となってきています。
安全保障上の問題へと発展か
シリアの国境近くでは正規のパスポートの売買もかなり進んでいるようです。
安価で不正にパスポートを入手することも可能となってきていることで「ISIS」のメンバーも大量に欧州に流れ込んできているという情報が随所から伝わり始めています。
これで欧州主要国内での本格的なテロなどが頻発すれば、欧州全域に「地政学的リスク」が高まることになり、ユーロが売られる原因となる可能性が高まってきている状況です。
欧州各国はシリアへの空爆を行うことで内戦を早期に止めることにより難民の流出を食い止めたいようですが、このシリアへの空爆にロシアが参加してきたことにより、米国、ロシア、EU各国のバランスにも変化が訪れ始めているのです。
これが、クリミア半島以上の政治的対立に発展する可能性もあって、ユーロのリスクは日に日に高まっている状況になってきています。
場合によってはUKのEU離脱を加速させかねない状況
欧州統一では「シュンゲン協定」が締結されたことにより、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることが許可されるようになっています。
【シュンゲン協定とは(Wikipediaから引用)】
ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のこと。
ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のこと。
しかし、緊急EU難民サミットでは、難民受け入れ割当て制度の導入が多数決で可決されたものの、英国・アイルランドなどはそもそもこの「シュンゲン協定」に参加していないため、この割当ての義務が廻ってきません。
ただ、当然のことながらUKへの受け入れ要請が高まっており、UKの国民がこれを嫌えばEUからの離脱が加速する可能性も出始めてきている点にも注意が必要となってきています。
「ギリシャ問題」がとりあえず一息ついて、欧州に起因するネタがここのところ途絶えた状況でしたが、シリアからの難民大量流入問題は「EU」の結束に大きなヒビを入れることになる要因であり、新たなリスクとして認識しなければならない事態に陥りつつあります。
冬が来れば難民の移動も困難になるため、この秋口にさらに大きな動きが出ることも想定されます。
この問題は、これまで全く意識してこなかったテールリスクの一つとなってきている状況です。
日本国内で見るメディア報道以上に・・・事態は深刻化しているのです。
(この記事を書いた人:今市太郎)