為替相場におけるM&Aの買い切り玉の賞味期限ですが、本邦の生命保険会社の豪州の保険事業買収などの話題でポンドが買われたり、豪ドル円の買い戻しが進んだりしています。
こうしたM&Aの話というのは、どこまでが賞味期限なのか非常にわかりにくい部分があり、一体どの時点まで相場についていくのかが大きな問題となります。今回はそうした点について考えてみたいと思います。
一番市場が動いたのはソフトバンクのスプリント買収
ここ3年ほどでもっとも為替市場が動いたのがソフトバンクによる米国スプリントの買収といえます。
この買収は「アベノミクス」がスタートする前の2012年10月に発表され、実際には2013年の1月から3月程度まで実施された模様です。
買収額は最終的に1.8兆円ほどになりましたが、米国内でも社債を発行していますから、すべてをドル転したわけではないと思われるものの、少なくとも為替市場では1兆円以上のドル買いがあったようです。
この間、株価の上昇でドル円がどんどん買い上げられる中にあって、ソフトバンク効果だけでも実に1円以上のドル円上昇の効果があったのではないかとさえ言われています。
当時ソフトバンクは買収が成功しなくてもこの為替ディールだけで大きな利益を収めることができたようで、かなり巧みな「投資」を実現したことで話題になりました。
英SABミラー業界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブからの買収提案を受け入れ
英国で話題になっているのが、ビール世界第2位の英SABミラーの業界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブからの買収提案を5度目にしてようやく受け入れたというニュースです。
新たな買収提案価格は1株当たり44ポンド(68ドル)で、SABミラーの9月14日終値に約50%上乗せした水準というかなりのプレミアムです。
これはざっと「12兆5000億円」を超える金額ですから上述のソフトバンクのスプリント買収よりもかなり大きな額であることは間違いなく、この報道がでた段階ではポンドが大きく上昇することとなりました。
しかし、実際の買い切り玉によるポンド調達はまだまだこれから話であり、ユーロポンドも噂が出たときポンド高になったものの、買収が決まった段階ではまたユーロ高になるという微妙な動きをすることになりました。
実際のディールが動く前にひと勝負ついてしまうところが、なかなか厄介なものといえるのです。
日本生命・豪銀の保険事業買収で合意報道から豪ドル円は下支え
一方、日本生命保険がオーストラリアのナショナル・オーストラリア銀行の保険事業を買収する方向で最終調整に入ったことが13日報道されて以来、豪ドル円もこれが大きな下支えとなりつつあります。
買収額は2000億から3000億円程度となる見通しで、今月内にも合意し、来年3月末までに手続きを完了したい考えとしていますので、実際の豪ドル買いが始まるのはまだまだこれからということになりそうです。
このようにM&Aによる外貨調達ネタというのは確かに実効性のあるもので、為替相場には影響を与えます。当座の話題になったときが一番上昇するのが特徴であり、その後実際に相場が動きはじめた頃というのはあまり話題にならないという特別な状況が展開することが多くなります。
実は・・忘れたことがもっとも買い切り玉として大きな存在になることは間違いなく、一息ついてから再度意識して売買してみるというのも面白いのかもしれません。
但し、気をつけなくてはならないのは、たとえば日本生命の豪ドル買いにしても、豪ドル円を直接買うのではなくドル円を購入してドルを豪ドルに転換するのが基本となります。
すでに米ドルを保有している場合、豪ドル米ドルの部分だけに実需が現れることもありますから、クロス円で考えていると実際に期待したような動きにならないことが起きる可能性についても想定しておくべきです。
(この記事を書いた人:今市太郎)