一般的に製造業や国内で生活する消費者にとっては輸入エネルギーである「原油価格」が大幅に下落するのはプラスになる要素が多く、もっと享受すべきことです。
しかし、長らく高騰していたものの価格が恒常的に下落すると「デフレ要因」を敵視されるようになってしまい、貿易立国だったこの国は一体どこへ行ってしまったのかと首をかしげたくなります。
為替の世界でも金利差からドル円の上昇を今後も見込む投資家にとっては「ファンダメンタルズ」の実情を直視しなければならない状況が到来しているようです。
財務省が11月19日に発表した10月の貿易統計速報によりますと、輸出額から輸入額を差し引いた、「貿易収支は1115億円の黒字」となっています。貿易黒字はおよそ7ヶ月ぶりで、原油や液化天然ガスの大幅下落で輸入が二桁減となったのが大きな要因です。
輸出も経済減速が顕在化しつつある中国向けの柚須津が不振であることから、4ヶ月ぶりに減少しています。
半期ごとの推移でみますと、あきらかに貿易収支は改善していることが見られます。
とくに「アベノミクス」が始まった2013年の15兆円以上の赤字に比べるとその赤字幅が大きく後退していることがわかります。
原油価格の大幅下落はこれ以上のドル高を示現しない要素に
過去を振り返ってみますと、この「貿易赤字」に伴うドル買い需要はこの3年あまりで大幅に増加することとなり、ドル/円は2012年2月から2015年6月まで50円弱も円安方向に上昇することとなりました。
そういう意味では原油安は、明らかにドル高円安の動きにブレーキをかける役割を明確に果たし始めていることがわかります。
巷では「金融政策」の違いから2016年もドル高円安は継続するという見方も出ています。
しかし、「ファンダメンタルズ要因」から見た場合には一方的にドル高円安には動かない基盤ができつつあることがわかります。
原発の再稼動でさらにこの傾向は顕著に
さらに現政権は原発の稼動も粛々と進めており、これがさらに「貿易赤字」の解消に一役買うことは間違いない状況です。原発再稼動は円安終了の狼煙といっても過言ではない状況です。
いよいよ年末が近づき、焦点は「FOMC」の利上げ時期から来年の利上げ回数へとシフトしつつありますが、ここ3年あまり円安を支えてきた要因が徐々に消えつつあることは事実です。
さらなる円安が継続的になるとすれば、それは日本売りの悪い円安の方向になる可能性であるとの認識が必要になりそうです。
トレンドの変化に注意が必要な2016年
来年の話をするのはいささか気が早い状況ですが、このようにドル円をとりまく経済環境は大きく変化しつつあり、チャートを使った売買でも年に2回程度しか明確に現れないとされるトレンド変化に2016年は年明けから十分に注意を払う必要がありそうです。
既に以前のコラムでもとりあげていますが、今年はドル円の上下幅が10円程度と酷く狭い状況で、結果的には去年よりも膠着した相場になっています。
ここからドル円が128円まであげてやっと例年の15円幅ということですから、いかに動きの少ない年であったかよくわかります。
この時期になると「ポジショントーク」を含めて、金融関係者が来年の為替相場状況について見通しを発表することが多くなりますが、丸々信用するのではなく、自らの目で理解できる情報を積み上げて相場感を養いたいものです。
相場にある事実は結果的にはひとつだけしか存在しないことを忘れてはなりません。
(この記事を書いた人:今市太郎)