先進各国の「中央銀行」の政策決定に振り回されているうちに「中国人民銀行(PBOC)」は12月11日遅く、13通貨で構成される貿易加重バスケットに対する「人民元」の基準レートの発表を開始すると公表し、市場を震撼させています。
事実上「ドルペッグ制」をとっていた「人民元」がこの新たな基準レートにより、対ドル相場のみに焦点を当てることから変化するという重要なものになるということを示唆しており「人民元」のレートが今後どうなっていくのかに注目が集まりつつあります。
人民銀行は、新たな基準レートが「重要な意味」を持つと述べており、とにかく市場を変化させるつもりがあることを強く訴求しています。
市場にまかせて切り下げを行うつもりか?
米議会下院は18日、「国際通貨基金(IMF)」の出資比率見直しの承認などを含む歳出法案を可決しています。同日中に上院も通過し、大統領の署名をへて近く成立する見通し。改革が実現すると、中国の出資比率が現在の6位から、日米に続く3位が正式に決定することになったわけです。
こうした動きをうけて中国もこれまでのように独自に切り下げをいきなり発表するといった暴挙には出られなくなるとの見方が強まっていますが、逆に市場の流動性を利用してじわりと切り下げを進めていく可能性が高まったという見方もあって、市場の反応は微妙です。対ドルでいいますと、これまでは実力以上にあげてしまったのが「人民元」ですから今回のバスケット制の再適用により日本円などとの対比が強くなれば自ずと「人民元」が下落することは間違いなく、そのレベルがどこまで進むかが心配されています。
特に「PBOC」が自発的に仕向けるのではなく市場の反応として下落が進めば先進国も文句のつけようがなくなってくるわけで、かなり巧みなやり方を取ってくる可能性が高まっているといえるのです。
ただし、中国当局は「人民元」の動きを引き続きコントロールし、ドル建ての借り入れ額が大きい中国企業の破綻を懸念して通貨安誘導はじわじわとしたペースでしか行わない、というのが銀行関係者の支配的な声ですので、今年8月のような動きにはならないとの楽観的な見方もでています。
賃金コストも上昇している中国には元切り下げは必須の条件
これまで世界の工場と呼ばれてきた中国ですが、そもそもの労働賃金が上昇し元高も進んだことから、中国が輸出国として力を盛り返すためには最低限10%以上の元の切り下げが必要との専門家の見方も出始めています。
しかしこうした元安による輸出の回復は同時に世界中に「デフレ」も輸出することになるため、先進国経済にとっても大きな打撃を与える可能性が高く、多少の国内的な企業の犠牲があってもかなり早いペースで切り下げを断行してくる可能性も残されています。
「人民元」のレートがそれほど世界経済と為替に影響を与えることになるというのはこれまでの動きからするとなかなか理解しにくい状況がありますが、米国の利上げがスタートしたこの時点では、「原油価格」に次ぐほど大きなイシューになりつつあるといえるのです。
市場原理を利用した切り下げでは想定を超える下落の可能性も
前回「8月24日の切り下げ」はたった3%程度でも世界的に市場を震撼させることになりましたが、これで市場原理のもとに1割以上の下げが示現した場合、さらに世界の金融市場へのネガティブなインパクトが高まることは間違いないといえます。
またアジアの近隣国の窮乏化政策にもつながることからドル円で考えれば、相当な円高にゆり戻しがでることも想定しておく必要がありそうです。
今年ドル円はクロス円の上昇からたった10円強の幅しか動きませんでしたが、ここから10円下方向をみれば110円台を割れる可能性は十分にあり、2016年は単に下がればドル円を買って儲かる相場ではなくなりそうな気配です。
(この記事を書いた人:今市太郎)