中国・全人代の開催で、財政出動期待も高まり、鉄鉱石の価格が突然大幅に上昇するといった不思議な動きも目立つ金融市場ですが、国際決済銀行(BIS)が6日に公表した四半期レポートでは、中国からの資金流出は民間の資金が逃避しているのではなく、ドル建て債務の返済であるとし、相変わらず中国本土から巨額な資金が流出し続けていることを暴露し、話題になっています。
中国貿易統計が資金流出経路を露見
ブルームバーグが9日に記事にしていますが、中国が8日に発表した香港からの輸入急増を受け、貿易インボイスが中国本土外への資金移動の為に操作されているとの観測が再び広がりつつあります。
中国による2月の輸入は全体では前年同月比14%減ったものの、香港からの輸入は89%増加するという実に不自然な数字が示現しているのです。
香港からの輸入急増は1月ほどの大きさではなかったものの、最近数カ月は同様のパターンで増えており、企業が実際の輸入額を大きく上回る額を支払っているか、あるいは実体のない輸入に対して支払いを行っている可能性を関係機関が指摘しはじめています。
そもそもこの国が発表する、あらゆる経済統計結果は微妙に作りこまれており、一体何が本当なのかさっぱりわかりません。
外貨準備については対外的な支払い問題で相手の絡む話ですから、いくら捏造したところで外貨がなくなったらそれでお仕舞いとなりますから、当然否が応でも人民元を切り下げざるをえないタイミングがやってくると思われ、昨年8月を上回るショックが繰り返される危険性が高まりつつあります。
そもそも本当に外貨準備がいくらあるかわからない中国
「中国人民銀行」は7日、2月末の外貨準備高が3兆2023億ドル(約364兆円)となり、前月に比べ286億ドル減ったと発表しています。
4カ月連続で減少したものの、1月まで月1千億ドル前後減っていたペースと比べればその減少スピードは落ちているとされているのですが、アメリカの研究機関GFI(グローバル・フィナンシャル・インテグリティーの調査によると、中国の外貨準備は大幅に偽装されている可能性が高いとの指摘がなされています。
このGFIによると、中国の外貨準備で確実に存在していると計算できるのが米国債保有分(1.2兆ドル)だけであり、金の保有も実に少ないため、その他の外貨準備が何で保有されているのかまったくわからないのが実情です。
また不正に国外へと流出した外貨準備が最低でも1兆ドル以上存在するだろう、という衝撃のレポートも発表されています。この調査機関によれば中国政府の公表額よりも少なくとも3割は減少しているはずだ、という推測が登場しているのです。
さらに他の新興国に貸し付けている資金が焦げ付いていて回収不能に落ち追っているとの見方もでており、本当はもっと少ない外貨準備しか残されていないのではないかという厳しい指摘も出始めています。
人民元切り下げは外貨準備補填のための最良の施策
2015年8月に「中国人民銀行」が政策転換をして、人民元の切り下げに走り始めたことを受けて、株も為替も大幅に下落したのは記憶に新しいところです。
現在偽装されている中国経済の実体に則せば、人民元はもっと安いのが正当だという流れを示唆しており、非常に深刻な状況にさしかかってきていることを暗示しているといえます。
人民元の切り下げは、元売りドル買いの為替介入を増やす事を意味するので、これで減少している外貨準備を補填するという役割を担っており、外貨準備の枯渇段階ではもはや必要不可欠の手法になりつつあるのです。
人民元切り下げは、輸出促進(景気の下支え)を指摘する声も多かったわけですが、実際には減損した外貨準備を補填する役割を果たしており、「G20」でどのような国際公約を果たしても切り下げは早晩行わないわけには行かない状況が刻一刻とさし迫っているようです。
土日を問わず突然切り下げをやらかすのが中国の手口
2015年1月15日、永続的に為替介入をして対ユーロのレベルを一定以上に保つと宣言してきたスイス中銀が「もう無理なのでやめますから」といきなり発表しました。
これにより、スイスフランの暴騰が起こり、金融機関も大きく痛み、一部のFX業者が姿を消し、個人投資家は追証を求められるといったFX中心のきわめて深刻な事態が起きました。
中国がこの人民元の切り下げをなんらかの手法を使って行いはじめた場合、その被害規模はスイスフランの比ではなくあらゆる通貨に波及することが考えられます。
専門家の試算ではすでに人民元はドルに対して30%程度高くなっており、円に対しても同様の状況ですから、直接的に切り下げを断行しなくても、本日から自由変動相場制に移行しますと宣言した途端に市場圧力だけで元安を実現させられる可能性があります。
ですから、西側諸国のケチがつけられない状況での元安となることも考えておく必要があります。
しかしこの中国の動きは一体どこで顕在化してくるかはまったく予想できず、非常に不安が募ることになりますが「中国人民銀行」の公表外貨準備がオフィシャル数字であっても2兆円台に入ってくることになれば、いつ切り下げが行われても不思議はないものといえ、ここからはかなり注意が必要です。
「3月10日の暴落説」は幸いなことに当たらずに済みましたが、この中国リスクのほうは逃げ場のないところにさしかかっているように見えます。
(この記事を書いた人:今市太郎)