長くFXの売買に絡んでいますが、昨年末から今年にかけて原油価格の動向がここまで株価と為替に影響を与えたのは私が売買を開始してからは初めてであり、原油の先物価格を見ながら為替の売買をすることになったのも本当にめずらしい経験といえます。
米国の株式相場はすっかりドル安と原油高次第での動きになってきており、原油相場はまったく無視できないものになりつつあることがわかります。
その原油は4月予想外に大きく戻すことになりました。市場ではさらに上方向を目指すなどという楽観的な発言も散見されますが、FXにも影響を与える原油がこの先どう動いていくことになりそうなのか、今回は原油相場に焦点をあててみることにします。
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2016年はWTI原油リバウンドの年だが
今年の2月11日、日本ではSQの前日で国民の祝日を狙い大きくドル円が下落したタイミングでしたが、このときに「WTI」の原油価格も26.05ドルの最安値をつけ、ここからリバウンドがはじまっています。
すでに足元では45ドル台も回復する形となっていますが、このレベルは2015年5月からの下げのほぼ半値戻りを超えており、90日移動平均との乖離も25%以上になっていますからさすがに急激に戻しすぎであり、ここから上にどんどん上昇を期待することには無理があるといえます。
むしろよくここまで短期間に戻したものだと感心させられますが、どうもこうした動きにもいろいろな事情が絡み合っているようです。
出展:CNN Money
ここまで戻したのにはシェール関連に大人の事情あり
4月17日に行われた「OPEC」,非OPEC産油国によるドーハでの原油増産凍結交渉は市場の期待とは裏腹に合意を見ることはなく、それを受けて一時的に原油価格も下がりましたが、その後はなぜか堅調に推移し4月末は45ドル超まで回復する形となっています。
相場を取り巻く環境から考えるとここまでするする戻るのは多少違和感も感じるものがありましたが、実は4月は米国の市場では「シェールガス」関連の「ハイイールドボンド」、つまり「ジャンク債」の償還期が重なっており、金融市場的にこの「ジャンク債」に問題が起きないように、どうしても原油の先物価格を吊り上げる必要があったとされています。
まあだれがこの吊り上げに協力したのかは定かではありませんが、一部のファンド勢が無理やり買い上げたともされており、プレーンな市場状況から原油相場が上昇したわけではないことが見えてきます。
過度に売り込んだ連中も底値で買って価格が戻して利益を得ることができたはずです。
この先は市場次第で再下落もありうる状況
一時の危機的状況からはかなり値を戻した原油相場ですが、ロシアのプーチン大統領が原油は50ドル以上に戻すことはないと予想するように、政治的な駆け引きにも使われる原油価格はいくらリバウンドの年といってもここからさらに上昇方向に動くとは思えない状況になってきています。
サウジアラビアはアラムコの国際部門のIPOを正式決定し、上場後の時価総額は世界首位の米アップルを大きく上回る2兆ドル(約220兆円)超を見込むものが予想されています。
これにより当面サウジは財政資金の逼迫を回避することができることになり、SWFの日本株売りも一旦は落ち着きを見せています。それだけに原油価格が再下落をしても痛くもかゆくもなく、引き続き米系の「シェールガス企業」の経営に圧力をかけていくことはほぼ間違いない動きと考えられます。
ひと昔前に比べると需給だけではなく投機の対象となって事ある毎に高騰を続けてきた原油相場ですが、直近ではすっかり需給ベースで価格が推移するようになっており、もはや高騰を望むことはできなくなっています。
ただ、逆に下落局面では株と為替に与えるインパクトは以前よりはるかに大きくなってきており、引き続き上昇よりも下落に気を使うことになりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)