8日三菱東京UJF銀行が国債市場特別参加者(プライマリーディーラー)の資格を日銀に返上する方針が明らかになり、海外を中心にして相場に影響を与え始めています。
もともとこのプライマリーディーラーは22社ほどあるものですし、今は殆どの国債を日銀自身が買い込んでいる状態ですから、短期的に直接的な影響がでるとはいえませんが、日本を代表する「メガバンク」がこうした資格を返上するというのは異例の事態で、その後の市場がどう変化することになるのか海外の投資ファンドなどを中心に注目を浴び始めています。
Photo 東洋経済
マイナス金利への抵抗の示現か
国債市場特別参加者は発行予定額の4%以上の応札、ならびに1%以上の落札が義務付けられていますが、年間150兆円の発行額をベースにした場合、1.5兆円程度が買いつけのノルマになるわけですから、仮に「マイナス金利」がさらに深堀になったとしても、それほど大きなリスクにはなっていないと見られています。
したがって、むしろ実利的な部分よりもいきなり日銀がサプライズで「マイナス金利」を適用したことに対する反感がかなり募っての動きになっているのではないかとも憶測されはじめています。
海外勢は大きな関心をもって事態の推移を見守る状況
果たして残り21社のうち、どの程度が似たような動きになるのかがまず気になるところです。
「JGB」というのは他の先進各国に比べて国内の投資家保有率がきわめて高い債券であり、国内勢だけの保有に長年大きく貢献してきたのが本邦の金融機関、とりわけ「メガバンク」であるだけにこうした形での離反が進んだ場合に、かなり先のこととは言え、出口戦略を履行するときに引き受け金融機関の数が減少するのは少なからず日銀にとっては大きなリスクにつながるものと考えられます。
なにより日本独自の「護送船団方式」の中で、大蔵省と日銀の言うことを聞いてきた「メガバンク」最大手の三菱東京UFJ銀行がこうした動きに出ている点は、大きな関心をもって市場に見られるようになってきているのです。
また格付け会社の視点で見ると、国内の「メガバンク」ですら引き受けを積極的にしなくなる国債の価値の問題は当然発生することになり、さらに同調する金融機関が増加すれば確実に格付け下落の要因になることも考えられます。
そうでなくても増税の見送りや、原資もないのに平気で始めようとする大型財政出動などを通じて、日本国債の格付けは下落のリスクに直面しており、今回のような動きがプラスに働くことは何一つないのが実情です。
海外投機筋は中央銀行を絶対視していない
国内では日銀の意向は絶対感をもって見られていますが、海外では「BOE」・英国中銀が「ジョージ・ソロス」の「ヘッジファンド」に1992年に完全に負けて、いまだにユーロ利用ができない理由を作り出した経緯などもよく理解しており、「中央銀行」イコール絶対的地位とは認識していない点も国内の見方とは異なる部分です。
かのケインズは、自著において「年間2%にも満たないような金利もつけられない市場では、資本主義の要件を満たしていない」と警告しています。
日本の場合延々と金利を限りなくゼロに近いところで抑えて債券金利を支払わないことで破綻を免れるといった独特の方法を維持してきているだけに、どこかでこの歯車が狂い出せば、いきなりハイパーインフレに直面することにもなりかねません。
とかく海外勢からの国債売りがリスクとされてきましたが、実は金利の上昇は国内勢の保有国債売りに火をつける可能性もあり、ここからの動きは見逃すことができなくなってきています。
場合によってはこうした事象がドル円における円高を醸成する可能性は極めて高く、新たな円高リスクを取り込むことになってしまったといえそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)