本来どんな上場企業でも3月末の決算であれば、遅くとも6月中にはその中身を公表するのが筋なのですが、なぜか参議院選挙後に先伸ばしをしたのが「GPIFの2015年の運用結果」です。
7月29日の正式公表を前にずっと隠しとおしておくこともできず、いよいよその概算が前倒しで明らかになりました。
政府関係者によりますと、この2015年度末の運用成績は、去年8月の中国経済の減速に端を発した世界同時株安などが影響し「5兆円を超える赤字」となる見込みで、損失の詳細は今後の発表を待つこととなります。
UKのEU離脱騒動でさらなる含み損は明確
この昨年度の運用損失は、今年3月末の日経平均終値は「16758円」、ドル円は「112.58円」で考えたときの5兆円ですから、足元の日経平均株価で1000円下、為替で10円下の状況では、5兆円などの損害では済まないはずです。
2014年以降に積み上げた投資は株も為替もすべてのものが逆ザヤに陥っていることは間違いなく、少なくとも10兆円以上やられたことだけは間違いのないものと見られます。
人の金だと思って実に適当に資金を株価と為替の買い支えに使ってしまったことが、こうした莫大な損失につながったことは間違いありません。
損失が膨らむと「ポートフォーリオ」上の買い余力がでるという馬鹿な話もありますが、そもそもの原資が大幅に減少しているわけです。
今後2025年には「3人に1人が65歳以上」という極めて特異な高齢化社会を迎えて、年金原資自体は運用もさることながら資金の大幅な取り崩しが進むことになりますから、もはや相場下落の買い支えの資金として利用することが難しくなることは間違いありません。
この先GPIFがPKO軍団として株や為替を支えるのは無理
端的に言って、政権が「アベノミクス」などというまやかしの名称を使って、単なる「金融抑圧政策」でしかないのに国民から預かった金を使って、株価を買い支えたり上昇させたりする資金に転用することはもはや難しい状況に陥っていることがよくわかります。
「GPIF」が一定の為替ヘッジをやりはじめれば、円高局面でさらに円高を助長させかねない状況に陥ることは間違いなく「PKO」なのか相場破壊なのか、よくわからない役割を果たしてしまうことは間違いないものと思われます。
ここにも中央銀行バブル崩壊の足音が
ここ3年間、日銀主導で株価と為替を人為的に調整する作業がずっと繰り返されてきたわけですが、いよいよそれも終焉のときを迎える時期が差し迫ってきているように思われます。
人為的に相場を操っているとほとんどコントロール可能という錯覚に陥るようですが、これまでこうした相場が長く続いたことはなく、日銀の「金融緩和」が開始された3年半前にかなり近いところに相場が自律的に戻り始めていることを感じさせられます。
企業は過去3年間濡れ手に粟で掴んだ金を吐き出す羽目に
この3年間、日銀が無理やり「金融緩和」で資金を市中にばら撒き、株価を上昇させ、しかも自国通貨を切り下げる作業を行ってきたことで、多くの上場企業はさしたる努力もしなかったのに利益が増加し「内部留保」も断然増えることとなりました。
しかし、ここからはその利益を吐き出す時期にさしかかってきており、半期決算の利益見通しも当然下押しすることから、それが株価に反映し、回りまわってドル円も円高方向に下落することが容易に予想されます。
ドル円の売買もこうした環境変化をしっかりと認識して、トレードしていくことが必要になりそうです。
人によっては、なぜここまで状況が急激に悪化してしまったのかと危惧される方も多いようですが、考えてみればむりやり作り出した相場であるわけですから、すべてが剥落してしまうのもある意味では仕方ないことと言えそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)