先週から今週にかけてとにかく市場の話題となっている「ヘリコプターマネー」という言葉はノーベル経済学賞の受賞学者である「ミルトン・フリードマン」が1969年に書いた最適貨幣量という本の中で用いた寓話であり、47年も経過した今日にそれがまたまことしやかに語られることになるとは殆どの人が予想していなかったはずです。
外圧を利用してアベノミクスが終わっていないことを訴求
参院選直後にわざわざ「バーナンキ」を呼んできた今の内閣には、それなりの戦略が感じられます。
海外の「投機筋」の殆どは「アベノミクス」が既に終了していると認識してきましたが、前「FRB」議長で米国ではもっとも「デフレ」関係の研究に知名度の高い「バーナンキ」の口から「アベノミクス」は終わっておらず、まだ「デフレ」」脱却でできることはある、とあえて助言させることにより、再度「アベノミクス」の息を吹き返そうとしている政権の目論見がはっきりと見えてきつつあります。
しかし、これが「ヘリマネ」実現の市場の妄想につながっていることは間違いないようで、月末には何か具体的な政策がでることを強く市場が期待していることから、ドル円は105円台中盤から下には下がらず、かといって106円台中盤から上にある「実需」の売りの壁を突破することもできず、狭い上下のレンジで動きを継続させています。
日銀緩和に限界があることは政府も日銀も痛感している模様
昨年末から、かれこれ2回政策発表をして売り込まれ、現状維持2回でもまた売り込まれるという、既に手立てを失ったかのように見える日銀の政策決定については「黒田総裁」自身がその限界を感じているはずです。
「安倍政権」としても日銀にだけまかせておけば、なんとかなるわけではなくなっていることは相当しっかり認識しているものと思われます。
今回の総合経済対策では新幹線網の整備がかなり具体的に織込まれてきており、さながら平成版日本列島改造論の様相を呈しています。
内閣の参与である京大の藤井氏がまとめている新幹線網整備による地方再生を現実のものにする可能性は高く、40兆円を「ヘリマネ」で投入するかどうかは依然不明ですが、話半分としても20兆円程度を何回かにわけて「ヘリマネ」から捻出して手中投入してくる可能性は確かに残されているようです。
海外投機筋もこれがひょっとすると化けるかもしれないと思い始めているようで、今回株も為替も買い上げる動きの原動力になっていることは間違いありません。
月末、政府と日銀の共同声明という形でアウトラインの発表の可能性も
29日の「日銀政策決定会合」は既存の手法だけ使っていたのでは、また売り浴びせを受ける可能性がありますが、このタイミングと連動して政府と日銀がなんらかの共同声明で事実上の日銀の資金捻出引き受けを示唆するような内容を発表すれば、いきなり相場が跳ねる可能性は高くなりそうです。
株式関係者もこれをかなり期待しているようですが、スケジュール的にも内容的にも市場の期待を満足させられるような内容を、月末の微妙な時期に果たして繰り出してこれるのかどうかが今月の相場の大きなポイントになりそうです。
したがって29日まではドル円は発表期待の上昇をとらえて利益をとっても、事前には一旦利益を確定させておき、予想通りの共同声明で吹いたところはストップロス買いなどで上値についていく方法をとり、逆に何も出なくて現状維持となった場合にはストップロスの売りで下落についていくといったハイブリッドな戦略をとることが利益を確保することになりそうです。
この話は「日銀政策決定会合」と政権の総合経済対策の発表とのタイミングにより、大変な市場の売り浴びせを受ける可能性もありますので、どこまでこの二つがうまくシンクロしたスケジュールになるのかが注目されます。
現状では政権の思惑通り、すべてうまく動くシナリオと日銀と政権の協調が実現せずに従来どおりの政策決定会合で多いに市場の失望の買うシナリオの、両方を頭に描いておく必要がありそうです。
いずれにしても海外投機筋は実に勝手な期待を高めていますので、その妄想的な期待と事実に大きなギャップが生まれるといきなり売り浴びせになることだけは覚悟をしておく必要があり、この月末はまたしても難しい相場に直面することになりそうです。
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