日本は1兆2500万ドルという巨額の外貨準備を保有する国ですが、その大部分はドルであり、また米国債への投資が非常に多い国といわれます。
また機関投資家なども多くの米国債を保有していますから、利率が下がり金額ボリュームが少なくなったとは言ってもこれによる利息額は大きなものになることは事実です。
一部の債券を除きますと、2月と8月が多くの米国債の償還、利払い日に当たりますので、8月に利息を受け取れる米国債が多いこともまた事実といえます。
2年以上の償還期間の中期国債や10年以上の長期国債はほとんどが2月、8月が償還、利払い時期になっていますので、8月には利払いが行われているのは厳然たる事実です。
ただ、1年以内の短期国債は割引国債になっており、利息額を割り引いた価格で発行され、償還期に額面を受け取れる形になっています。
国内最大の米国債保有は財務省
ご存知のとおり国内でもっとも米国債を保有しているのは「財務省」です。
しかし彼らはこうした債券は売却しませんし、利払いがあってもそのまま再投資していますので、「財務省」起因で利払いの円転が起きることはありません。
そもそも財政難なのだから「米国債など売り飛ばせば?」と個人的には思うわけですが、これを口にして総理大臣を辞めることになった人物もいるぐらいですから、現状の日米関係では米国債はもっていても売れないお宝状態で、金利の円転も起こっていないのが現実です。
生保はスワップ取引を利用して8月初旬には円転済み
また機関投資家の中心的存在である生保の場合も米国債は購入していますが「スワップ取引」で受け渡し日を調整するようにしていますから、ほとんどが8月1日ぐらいには円転を済ませており、15日になったから円転しますという企業はほどんどないのが実情です。
したがって15日にドルで利払いが起きたので、そこから円転するという話は個人投資家か弱小企業にしか起こらない話になりつつあり、8月は円高の主要因と考えるにはあまりにも現実味のない話ということができます。そもそも2月に同様のことが顕著に起こらないというのも不思議な話です。
米債利息の円転でここから円高を想定するのはリスキー
ということで米国債利払いの円転で8月円高という話はFX業界、とりわけ店頭FX業者の説明にはこうした利払い理由でのドル売り話がよく登場しますが、支払日の直後に円転が大量にでるから円高というのは真っ赤な嘘だと断定はできませんが、きわめて起こりにくい話のひとつとして考えておくべきでしょう。
そもそも利払いのドルについても、円転のベストタイミングをみることが円での利益になるわけで、表面利率も事前にすべてわかっているわけですから、あらかじめいくら利息がもらえるかも承知している企業がほとんどです。
知恵のあるところなら、あらかじめドル売り予約をしておき円での受け取り金額を確定しているところが多いのではないでしょうか。
たとえば今年3月に為替予約ができていれば、受け取り金額は1ドルで実に14円近く多くなっているわけですから、利払いまでまってそこから円転するという話はかなり非現実的です。
個人投資家としてはこうした業界の定説話も一旦は嘘か本当か疑ってみて、実態をそれなりに調べてみることが重要になります。
もちろんこうした説明は個人投資家をだまそうとしているというよりは円高の説明のために便宜上持ち出しているだけでしょうから悪気のあるものではないと思いますが、検証は必要です。
今年7月第一週には国内投資家が外債投資に一段とシフトするようになっており、しかもその投資先は金利の先細る米国債からより利率のいいモーゲージ債などにシフトしつつあり、今後益々米国債の利払いで8月に円高にはなりにくくなってきている状況にあります。
市場の状況は刻一刻と変化していることを常に意識しておきたいものです。
(この記事を書いた人:今市太郎)