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英国の「EU離脱」をかけた交渉はドイツ対英国の女性宰相同士の戦いの様相が強くなってきていますが、そのメルケル首相の率いるCDU・ドイツキリスト教民主同盟に対する国民の支持が急激に低下し、随所の地方・州議会選挙で退廃を喫する動きが加速しつつあります。
成熟化する先進諸国で保守的な動きが進んでいるのはひとつのトレンドともいえますが、問題はドイツの場合、右翼政党が登場することによりEUの足並みがさらに揃わなくなりその維持が困難になるリスクが先に見え始めていることです。
「ドイツ銀行」の経営実態も気になるところですが、それ以上に政治的な屋台骨が揺るぎ始めたドイツの状況から目が話せなくなりつつあります。
CDUメルケル首相地元に次ぎ首都議会選でも敗北
去る9月4日中国・杭州で開催された「G20」の開催期間中、メルケル首相を直撃したのがメクレンブルク=フォーポマーン州の州議会選挙でキリスト教民主同盟が歴史的な敗北を喫することとなったニュースでした。
メクレンブルク=フォーポマーン州は、旧東独の、バルト海に面した小さな州であり、本来ならばおよそ話題にはならない州選挙に過ぎないのですが、ここがメルケル首相の選挙区でもあり、首相の人気を占う上では試金石となることから、欧州では非常に注目される選挙となったわけです。
選挙ではSPD(社会党)CDUの大連立が崩れ、AfD(ドイツの選択)という名称の右派新党が第二党に踊りでることとなり、CDUはあっさり敗北することとなってしまいました。
この右派勢力は、結党当初から一貫して「移民の受け入れ制限」を打ち出して来ており、今回それが大きく得票に結びついていることがわかります。
また18日に行われたドイツ首都ベルリン特別市で行われた議会選挙で、またいてもCDUがその得票率を大幅に低下させてしまい、ここでも大敗を喫することとなってしまったのです。
ここでも躍進したのはAfDで、同議会選挙では14%の得票率を獲得し、じつに16州のうち10州において議席を獲得するという躍進振りを見せています。
ドイツは来年に総選挙を控えていますが、連邦レベルでAfDが議席を獲得する可能性はきわめて高くなりつつあり、ドイツを取り巻く国内の政治状況は大幅に変化しつつあることがわかります。
メルケル移民政策は完全に失敗
メルケル首相率いるCDUに対する人気の低下と支持者の離反の最大の原因は、メルケル首相のここ1年程度の難民政策の失敗にあることは明らかで、人道的な意味から難民の受け入れをいち早く表明したドイツは無制限の受け入れをいち早く表明したものの、その裏側に隠れた安い労働力の確保の思惑は見事に失敗し、各地で難民による集団婦女暴行事件などが起こり、現実の厳しさを思い知らされるとともに国民の大きな反発を買う原因となってしまいました。
島国に暮らす我々にとっては、古来から地続きでこうした問題に何度も直面してきたドイツでは移民については国民もある程度のあきらめがあるものと思いがちでしたが、実はその嫌悪感は想像以上のものがあり、そもそもメルケル政権の賞味期限がいきなり到来しつつある状況に追い込まれていることがわかります。
BREXITで英国とやりあっても自身がいなくなるほうが先?
英国の離脱を巡っては欧州圏では女性の首相同士による薔薇の戦争が展開されそうな状況ですが、足元の動きから見ると交渉が決着を見るはるか前にメルケル首相自身が退場を余儀なくされそうで、むしろ市場ではその後のドイツの動きがどうなるのかに既に注目が集まりつつあるとも言われいます。
このままドイツが右傾化し保守化を加速させることになれば、EUの中での発言内容も変化することが容易に想定されることになります。
また来年はEUの根幹をなすフランスでも総選挙が実施されることから、こちらも保守化が進めばEU自体の今後の存続にも大きな影響が出る可能性がでてきています。
政治、経済両面で軋みが出始めているEUがこの先どうなっていくのかは通貨にも大変大きなインパクトがあり、引き続き状況を粒さにチェックし続ける必要がでてきています。
(この記事を書いた人:今市太郎)