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ボルカー・ルールは米国の大失敗から生まれた

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リーマンショック」の原因となった米国の金融業界のやりたい放題を大幅に規制するためにオバマ政権の2010年7月に成立したのが「ドット・フランク法」であるのは皆さんもよくご存知のものと思います。
正式にはDodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act、「ウォール街」改革および消費者保護法という名称のこの法律は、上院銀行委員長のクリストファー・ドッドと下院金融サービス委員長のバーニー・フランクの2名の姓を取って通称されており、これは1920年代の米国で金融的投機がもたらした世界金融不安および大恐慌の発生を根絶するため成立したグラス=スティーガル法の現代版であるとも言われているものです。
ところが、この法律がトランプ政権の誕生で廃止されるのは確実との見方が広がり、金融機関の株価が大きく上昇しているのが足元のNYダウの動きとなっているのです。
しかし大統領が変わったぐらいでそんなに簡単にこのような重要な法律が廃止されるものなのか、かなり首をかしげる部分も残ります。今回はこのドットフランク法、通称「ボルカールール」について考えて見たいと思います。 

そもそもこの法律による規制内容とは

このドットフランク法の中でも中核となる銀行の市場取引規制ルールのことを「ボルカールール」と呼んでいます。

ドットフランク法は2010年に成立している法律ですが、その中で銀行にきわめて厳しい規制を強いているのがボルカールールであり、このルールが銀行の利益喪失と運営コストを高めるものとなっていることは間違いない状況です。とくに以下の2つのポイントについてきわめて厳しい規制が適用されています。
自己勘定取引:
バンキングエンティティがトレーディング勘定(短期間で反対売買をする目的の取引、短期間の価格変動から収益を得るための目的の取引等)において、証券、デリバティブ、商品先物売買契約、それらに関するオプション等の売買、その他の取得または処分を行うことが禁止されています。
規制対象ファンドへの投資等(持分の取得・保有、スポンサー、融資、発行証券の購入および保証等):
規制対象ファンドとは、いわゆる少人数私募ファンドやプロ私募ファンドを含み(米国居住者に対して募集販売している私募ファンドを含む)、コモディティプールや米国 BE が保有する米国外私募ファンドも該当します。
またこれらの規制対象ファンドに対して投資することのみならず、規制対象ファンドのスポンサーになることも禁止されており、ファンドの取締役等経営メンバーに就くことや、ファンドの実質的な意思決定や業務運営を行うことがこれに該当します。
さらに、バンキングエンティティがファンドと同一の名称または同一の名称を変化させた名称を共有することも同様に禁止されています。実はこの二つのルールが厳正適用されてから、金融機関は自己売買がほとんどできなくなっており、とくに為替については顧客からの売買依頼を取り次ぐだけになってきたことから「インターバンク」の役割もかなり異なるものになってきているのです。
また子飼の「ヘッジファンド」などを保有することも規制されているわですから、そもそも利益機会というものが2008年までに比べるとかなり減少していることが容易に理解できます。
これを一気に廃止してしまおうというのですから、「ゴールドマンサックス」をはじめ大手の証券会社株が大きく上昇するのは無理もない話しで、特にNYダウに積極的に投資を行っているファンド勢の認識では、トランプのみならず共和党もこの法律を廃止する方向に動くと見ているところが非常に多くなっています。
まあ現時点で「ゴールドマンサックス」出身の人間を少なくとも3名閣僚として起用しようというのですから、こうした期待が高まるのもわからない話ではありません。

法律廃止ならFXに昔ながらのインターバンクが帰ってくる

まずこの法律が廃止なら、これまでFX市場で主体的におこなわれてきた「インターバンク」による自己売買が復活することになり、足元ではファンドと個人投資家の一騎打ちのような形になっていた市場状況が大きく変わることになります。

個人投資家にとってはどちらがいいのかは微妙ですが、少なくとも流動性はこれまで以上に高まることが期待できます。
問題は「サブプライムローン」など民間金融機関によるやりたい放題の結果に起きた「リーマンショック」を二度と引き起こさないために設定した消費者保護の法律を大統領が変わったぐらいで簡単に廃止していいものかということで、トランプ政権がスタートするとこうした問題がかなりの議論の対象になることは間違いなく、状況によっては市場の期待が大きく後退する可能性もあり、手放しで喜べるものではないことも認識しておく必要がありそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎
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