就任から1週間ちょっとというのに矢継ぎ早に大統領令を連発するトランプですが、相場にプラスに働くものもある反面、いかがなものかと思われるものも含まれており、市場の反応は様々です。
この大統領令というのは一体どういうもので、どのような拘束力が担保されることになるのか今回はその点を改めて確認してみることにしたいと思います。
そもそもの大統領令の役割とは
ひとの国の法律ですから我々他国の人間が細かく大統領令について知っているわけはないのですが、今回あまりにもこの大統領令が乱発されることになりますと一体どのような法律で、またどういった拘束力があるのかは非常に気になるところです。
簡潔にご説明しますと、米国では大統領が議会の承認や立法を得ずに直接的に連邦政府や軍に発令することができるものがこの大統領令なのです。
実はいろいろと調べてみますと米国憲法にはその明確な記述は示されていないものの、実際の施行上は法律と同等の効力をもつものとされているのです。
ただ、法律を作ることは大統領権限としては全く許されていませんので、大統領令がでても議会が法制化することでこれに対抗することは可能となっているのが大きな特徴といえます。
大統領令だけで実施できるものは結構幅広い
すでにこの1週間たらずで次から次へとトランプは大統領令に署名していますが、たとえば「TPP」の離脱に関してはまだ法制化されているわけではありませんから、もともと交渉のテーブルにつきませんからという判断は大統領令で政府機関に下すことができてしまうわけです。
ただ、議会に「TPP」承認手続きを中止するように強制することは不可能となります。メキシコとおおもめにもめているNAFTAについては再交渉で実施法の審議をするのは議会の立法が必要になりますが、その再交渉が不調に終わった場合にNAFTA離脱をすることは大統領令で可能というなかなか微妙なものになります。
メキシコとの国境に壁を建設することに関しての予算措置は当然議会による立法が必要になりますし、不法移民の強制送還強化も予算措置が絡むものであるため議会の承認が必要となります。
しかし移民受け入れ審査の厳格化は大統領令でも可能といったように一部分について先行して大統領令で規制を強化することができるものが結構あることがわかります。
就任早々発令したオバマケアの見直しも撤廃となると議会での承認が必要になりますが、オバマケア撤廃までの措置として保険会社や国民の負担を軽減するように各省庁に指示したのが今回の見直し大統領令となっています。
こうなると実効性よりも姿勢方針を大統領令でこれみよがしに明らかにしているとも見え、本質的な政策実施とはかなり異なるものも含まれていることが改めて理解できます。
面白いのは前政権の大統領令を打ち消すことは可能になっており、オバマ政権のやり方を否定するという意味では使い勝手のあるものといえそうです。
この大統領令は結構な数が出されており、たとえばクリントン政権では350件あまり、ブッシュ政権やオバマ政権でも250件以上が発令されていますので、そもそも結構な乱発感のあるものといえます。
予算教書に登場するものはすべて議会承認が必要
2月6日をめどに開示される予定の予算教書ではいよいよトランプ政権の具体的な政策の全貌が明らかになりますが、こちらはすべて議会の承認が必要になることから、政策は提示するものの実現性がどこまであるのかが問われることになり、足元でのきわめてパフォーマンス的要素の強い大統領令への署名のようにスムースには行かないことが予想されます。
また市場の判断もようやくこの時点からということになりそうで、ここからが正念場といえます。それにしても連日トランプに振り回されっぱなしで為替市場はかなり疲弊しはじめており、まだまだ落ち着きを取り戻せる状況にはないのが気になります。
(この記事を書いた人:今市太郎)