注目されるトランプ大統領の議会演説はどうやら日本時間3月1日の午前11時からという、東京タイムのど真ん中からスタートすることになったようで、またしても東京市場にその影響が直撃することとなりそうで、その演説内容が精査されない状況下では必要以上に相場が上下する可能性が高まりつつあります。
国内のメディアは安倍トラ会談終了後すっかり米国の国境税の話しに注目しなくなり、ニュースの話題は金正男の暗殺一色となってしまいましたが、実はこの国境税調整の話しは今回のトランプ演説のかなりの肝になる部分であり、ここがいかに具体性をもって話させるのかが今後の減税期待相場にとっても大きな山場になってきている状況です。
そもそもトランプと国境税と共和党の国境税調整にも違いがある
トランプ演説をしっかり理解するために、いくつか事前に理解しておかなくてはならないのが言葉の定義の問題です。トランプがもともと公約上で指し示してきた国境税はメキシコなど諸外国で製品を製造する企業を批判し、米国に輸出する製品に最大35%の関税を課すと脅してきました。
これとは別に、標準的な法人税率を現在の35%から15%に引き下げるとするものです。しかし共和党としてはより幅広い税制改革に国境調整を盛り込みたい意向であり、標準的な法人税率の20%への引き下げと、企業が利益を出した場所で課税する制度への移行を模索しているところが大きく異なるといえます。
より議会を通過させやすくするためにトランプがこのもともとの国境税試案をどこまで共和党の案にすり合わせて発言することになるのかが、まずは1つ目の注目ポイントとなりそうです。
これが具体的かつ共和党案に近ければ近いほど議会承認は得られやすくなるといえるわけですが、ここから既に荒唐無稽な発言になると、今回の減税の原資が失われることになり、市場の期待もかなり後退することが懸念されます。
米国内市場では小売業者の反発は猛烈
共和党の考える国境税調整がトランプ税制改革のベースになったとしても問題はまだかなり残ることになります。
そもそも共和党で考えている輸入品に一律20%の関税をかけ,輸出は無税とするという国境税調整の話は、全米の小売業者から猛烈な反発を食らっており、そう簡単に支持を得られていないのが実情です。
そもそもその税金を負担させられる国民が「はいそうですか」ということにはならない大きな問題をかかえています。過去20年以上グローバル化、アウトソーシング、新興国での生産という仕組みをどの国よりも推進してきたのが米国のメーカーです。
世界的に見ても国内消費だけで十分にやっていける偉大なるドメスティックカントリーと言われる米国であっても、足もとで海外からの製品に20%の税金がかかる新手の消費税のような仕組みが導入されれば、「GDP」の7割を構成する個人消費に影響がでるのは必至で、国外の人間が見ているほど簡単な話しではないのが現状です。
しかもこの税金が成立しえなくなりますと、国境税調整から得られると見られる向こう10年間の1兆ドルにも及ぶ税収の代替財源を失うことになり、そもそも減税が出来ませんという事態に発展することになってしまうわけです。
米国は法人税を無くすつもりなのか?
トランプが2月の月初にいまだかつてない驚くような減税政策と自らティーザーとして口走った内容がいまだに株式相場の上昇を牽引していることは間違いありませんが、法人税という形態を残しながら国境税調整のような仕向け地主義の課税を導入した場合、そもそもWTO協定違反とみなされるリスクが高まることになり、これをどうするのかも大きな問題になります。
このWTO協定では直接税の制度下において輸出と輸入を差別的に扱うことを厳禁していますから、ひょっとすると米国はこの仕組みの導入に閉じもなって法人税という直接税を止めてしまうことが驚くような減税策になるのかも知れません。
いずれにしても今回のトランプ演説は、この国境税調整周辺だけをフォーカスしても相当な内容を含んでおり、その損得勘定から相場は予想以上に荒れる可能性が高くなりそうです。
米国NYダウはさらに上伸しても日経平均は追随しない可能性も
この演説後の市場の反応も米国内と本邦勢とではかなり異なる可能性が考えられます。
仮にNYダウがさらなる上伸を示現するようなことになったとしても20%と具体的な数字を示されて国境税調整の対象になる国内の自動車産業などの株価が一緒に上伸する可能性は皆無で、対米輸出の大きな企業はその商品を果たしてどこで生産しているのかが大きな問題になりそうです。
為替の場合には上がるか下がるかしかありませんから、どちらにその優位性があるかで相場が決まることになりそうですが、ドル円などは意外な動きを示現するリスクも考えおく必要がありそうです。
最近こうした大きなイベントをうけての相場展開は事前予想がまったく当たらなくなってきていますので、事前にどうなるのかを必死に考えることよりも、相場がどう動くのかを注意深く見守って、動くほうについていく努力をすることのほうが重要になりそうで、余分な決めうちはしないほうがよさそうな状況となってきています。
(この記事を書いた人:今市太郎)