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トランプが大統領就任後唐突に出してきて、いきなり署名をしてしまった中東・アフリカの7カ国の国民の入国を一時禁止し、内戦から逃れるシリア難民の受け入れを無期限停止する大統領令ですが、さすがにこんな内容をトランプが考え付くわけはなく、必ず後ろで糸を引いているやつがいると思っていたところ、ここへ来てその人物がかなりメディアでクローズアップされ話題になってきています。
その人物こそが「スティーブン・バノン」大統領上級顧問兼首席戦略官です。先般再署名した移民に関する大統領令にもバノンは深く係わっており、足もとでは、安全保障の最高意思決定機関である米国家安全保障会議(NSC)で閣僚級委員会の常任メンバーに引き上げられており、益々重要な役割を果たす存在になってきているのです。
バノンとはどんな人物なのか?
スティーブンバノンは保守系オンラインニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」会長から今回トランプ政権に深く係わる存在となっていますが、このメディアは典型的な右翼メディアとして知られており、バノンは白人至上主義者で、反ユダヤ主義者、女性差別主義者としても知られ、今回議会の承認のいらないポジションにまんまと収まってしまったことを非常に危惧する声が高まっています。
もともとバノンはバージニア工科大学を卒業後76年から83年まで海軍で働き、その後ハーバードビジネススクールで経営学修士の学位を取得してからゴールドマンサックスのM&A部門で働いた経歴をもつ人物です。
その後メディア専門の投資会社を立ち上げたあとソシエテジェネラルに売却され、2012年に今のブライトバード・ニュース・ネットワークの経営権を引き継ぎ会長に就任しています。
トランプの入国制限大統領令はバノンの試案の丸呑み
大統領選挙戦当時は思いつきだけで結構過激なことを口走っているように思えたトランプですが、それぞれの政策領域では黒子で下敷きになる試案を差し出している人物が結構豊富に存在しており、そうした人材が今回政権の中枢に取り立てられていることが徐々にわかってきています。
移民制限の大統領令は完全にこのバノンの試案がそのまま採用されている形で、ツイッター上ではバノン大統領を阻止せよというハッシュタグまで広がるほど一部の米国民からは嫌気された存在になってきていることがわかります。
このバノンはトランプにダイレクトに意見できる唯一の人間で、ティーパーティから送り込まれて来ているキーパーソンということでもあるわけですから、トランプの政策はこれ以外におかしな方向に行きかねないリスクが出てきており、市場の一部では既にこうした状況も嫌気されはじめているようです。
強硬派ぞろいの政権であることがかなり明確になってきた
トランプ政権のこうしたやり方は一事が万事の感があり、移民政策についてはバノンの試案丸呑みであり、通商政策についてはかなり「ピーターナヴァロ」と「ウィルバーロス」の試案に依存しきっていることが明らかになってきています。
とくに気になるのは右翼的なナショナリストがこの政権の随所に顔を見せることで、しかもそうした人物の考えている内容をそのままトランプが政策として出してくるあたりはなんとも評価しがたい部分もあり、潜在的に危なさのある政権であることがいまさらながらににじみ出始めていることがわかります。
トランプ政権の政策には依然として高い期待感が高まっていますが、ここから具体的な政策が開示され進んでいく段階ではこれまで市場の外に登場しなかった負の領域が外側にあらわになってくる部分も多くなりそうで、そうそう諸手をあげて喜んではいられない状況も随所に示現してくることが予想されます。
特に移民問題や特定国の敵視などは地政学的リスクに発展する可能性もあるだけに、政権が変わったのだから仕方ないとはいえない状況もあり、やはり そこはかとなく不安を感じる政権であることは間違いありません。
とりわけ為替に関しては、このスティーブンバノン、ピーターナヴァロ、ウィルバーロス、ロバートライトハイザーなど想像以上に右よりな兵がそろい踏みした中では簡単に円安方向には動かないのではないかという悲観的な見通しも高まりつつあることは忘れてはならない状況です。
(この記事を書いた人:今市太郎)