市場では17日からドイツで開催される「G20」財務相・中央銀行総裁会議にデビューする米国ムニューシン財務長官の言動に注目が集まっていますが、米国の保護主義は間違いないものであり、声明がどのような形になったとしてもWTOすら脱退しかねない米国の勢いを参加国が止められるとは思えない状況です。
ムニューシンも表立って過激なことを口走る可能性は少ないものと思いますが、今後米国が中国とどのような交渉を重ねていくか次第では円安に急激な歯止めがかかる可能性があることもまた事実です。
そんな中で同じタイミングに米国のウィルバーロス商務長官が初来日しますが、こちらのほうが遥かに恐ろしい状況に直面しているといえそうです。
ムニューシンとはいかなる人物か?
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当初「ムニューチン」と表記されていたこの財務大臣の名称は国内では「ムニューシン」に統一されたようで、発音的にはマニューチンという話しもあり、国内のメディア統一表記が正しいかどうかはよくわかりませんが一応このコラムでも今後は「ムニューシン」に統一させておくことにしたいと思います。
そもそもこの名前はユダヤ系ロシア人にはよくある名前のようで、同氏も1916年に祖父の代で移民してきたユダヤ系ロシア人とのことです。
トランプ政権はゴールドマンサックス政権であると揶揄されますが、この人物もまさにゴールドマンの出身であり、イエール大学を卒業後、父親と同じくゴールドマンに入社し17年ほど勤務した経験をもちます。
興味深いのはその後の彼の経歴で、金融危機で破綻した住宅金融会社を買収・再建したり、映画製作会社を設立し、X-MENシリーズやアバターの映画製作でヒットを飛ばした、かなり異質でアイデアマンな存在であり、単なる金融屋ではないことを示唆する人物であることがわかります。
トランプ政権では財務責任者ですから米国第一主義や高い経済成長の達成の担い手となることは間違いありませんが、政界参入は今回がはじめてですから、いきなり全力疾走はせずにバランスをとりながら米国の主張をじわりと示唆していく役割を果たすものと思われます。
したがって今回の「G20」のデビュー戦でもいきなりエキセントリックなことを言い出すとは思えず、表面的には無難にこなす可能性は高いものと考えられます。ただ、ハードネゴシエーターであることは間違いなく、今後米国経済・財政のキーマンとなることは間違いない存在です。
より強烈なハードネゴシエーターはウィルバーロス
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このコラムでは既に影の大統領との異名を持つ「スティーブン・バノン」の存在ご紹介していますが、通商関係で貿易三人周とされている兵が対中国強硬派で知られる「ピーターナヴァロ」国家通商会議代表とアメリカ合衆国通商代表の「ロバートライトハイザー」、そして今回来日を果たす「ウィルバーロス」商務長官といわれています。
この3人はかなりお互いに通じ合っているといわれ、役割分担をしながら日本との通商問題に強烈なプレッシャーを与えてくる存在となるのは間違いなく。とりわけ「FTA」の締結や米国の対日赤字の見返りに米国からモノを買うように仕向けたり、為替の水準に物申す存在となることになりそうです。
とりわけ心配されるのは、二国間交渉になった場合「TPP」のように複数国対米国の構図ではなく日米の1対1の交渉となるため、こうした猛者を相手に果たして日本の政治家がまともな交渉を行えるのかどうかで、恐らく相当な条件をつきつけられて逃げ場がないなかでその内容を飲まされてしまうリスクが高まっているといえます。
日本政府は有益な会談であったとお茶を濁すことは間違いありませんが、これから4月にかけて米国からダイレクトに仕掛けられるプレッシャーにどのように日本が応えていくのかは非常に大きなポイントになりそうです。
通商問題での円高圧力を過小評価しがちな本邦エコノミスト
国内のエコノミストはトランプ政権が繰り出してくる「ドル高になりやすい政策」に加え、「日米の金利差拡大からドル高が進行する」と見る向きも多くなっています。
しかし、ことドル円に関する限り政治がその水準を決めてきたという悲しい歴史を背負っているだけに、今回登場する米国サイドのハードネゴシエーターを前にしてドル円が120円方向にどんどん上昇すると考えるのはさすがに楽観視しすぎではないかと思われます。
とくに中国との為替問題で一定の合意がはかられた場合、円安は米国にとっても中国にとっても邪魔以外のなにものでもない状況となりますから、無理やり円高方向にけん制されるリスクは相当高まるものと思われます。
米国が容認するドル円の上限がどこなのかも非常に大きな問題になりそうで、日米会談以降の米国サイドのこうした要人発言に注目していきたい状況です。
(この記事を書いた人:今市太郎)