111円台に落ち込み、さらに下値を追いそうな動きであったドル円はNYタイムにモスクワで米朝会談があるのではないかとの期待とともに、スタンフォード大学の教授で元財務次官の経験もあるジョン・テイラー氏がFRB議長候補として有力という報道が飛び出したことから急激に値を戻す展開となっています。
現在の驚くべきバブル相場を継続させたいと画策するトランプ政権とテーラー氏の考え方に親和性があるとは到底思いえませんが、この人選が進むことになればドル円は年末から来年に向けて大きく上昇することが考えられ、目を離すことのできない材料になりそうです。
ジョン・テイラーとは何者か?
Photo Stanford Univ.
「ジョン・テイラー」というと80年代のニューウェーブバンド・デュランデュランの共同創設者であるナイジェル・ジョン・テイラーを思い出す方も多いかと思いますが、今回クローズアップされているジョン・テイラーは全くの別人です。
「テイラールール」を作り出した人物としてあまりにも有名な存在であり、2001年から4年間はブッシュ政権下で財務次官に就任したこともある金融のエキスパートとして知られる存在です。
あまりにも厳格な金利政策を求めるテイラー・ルール
スタンレーフィッシャーのもとで急激に人材が多くなった「MIT学派」とは別にスタンフォード大で博士号をテイラーは取得しています。
効率的な「中央銀行」の「金融政策」は、短期金利を操作することで経済の行き過ぎの状態をコントロールすること、つまり経済が過熱気味のときには短期金利を切り上げ、停滞時にはその金利切り下げるというこれまでの「中央銀行」の政策の基本的なルールとなっており、これが「テイラールール」と呼ばれているものです。
彼のルールを現状の経済状況にあてはめてみると、FF金利の適正水準は3.74%とされており、今後短期間に2.5%の金利上昇を実施することになるわけですから、テイラーの名前が出ただけでドル円が跳ね上がるのは当たり前です。
株価はわれ関せずで上昇していますが、ここまで短期に金利が上がれば株価が耐え切れなくなるのは時間の問題で、本当にトランプがこうした人物を次期FRB議長に選択するのかどうかに大きな注目が集まることになりそうです。
柔軟運用を口にし始めたテイラー
ところがこのテイラー氏は10月13日にボストン連銀が開いた会合でこのルールを擁護はしましたが、金融当局者の手を縛るものではないとも発言しており、柔軟な姿勢をとり始めていることが注目されています。
ローゼングレンボストン連銀総裁もテイラーの柔軟姿勢を高く評価しており、トランプの緩和政策とほとんど整合性がないように見えるこの人物がFRB議長に選ばれる可能性もかなり高くなってきているということができそうです。
ただ、テイラーはボルカールールの生みの親であるポール・ボルカーにも大きな影響を受けている存在で、リーマンショックのときにも、それまでのFRBの低金利政策による住宅バブルの出現を厳しく糾弾した存在ですから、金利の政策には適当に目を瞑ってもドッドフランク法の廃止などを容認できるのかどうかも大きな関心を集めそうです。
いずれにしてもテイラー次期FRB議長が誕生すれば、イエレンのような様子見のチキン政策の実施とはかなり異なる運営になることは間違いなく、いきなり3%台にまで金利を上昇させることはないにしても来年の利上げはほぼ確定的となることから、ドル円には非常に大きな影響を与えることになりそうです。
それとともに、この人物の就任前に株式相場が大きく価格調整を行うことも想定されるため、今後の行方は金融市場に想像以上のインパクトを与えることになりそうです。
トランプ政権下ではなかなか学者もFRB議長になり手がいないという話も聴きますから、選択肢がそれほど用意されていない可能性も考えられますが、何がトランプをこうした選択に向かわせているのかも非常に興味のあるところです。
(この記事を書いた人:今市太郎)