ECBは正式に資産買入を年内で終了することを発表しましたが、金利だけはそのまま1年先まで温存するとしたことから市場には大きなネガティブサプライズとなってしまいユーロドルは一気に300PIPSも下落するという番狂わせを演じることとなってしまいました。
出口戦略の履行を期待してユーロを買い上げた向きは一斉に投げさせられる猛烈な動きとなってしまいましたが、日足レベルで見た場合にはそれほど大きな問題ではなく、むしろECBが正式に出口戦略を始めたことをあたらめてしっかりと理解する必要がありそうです。
当面はユーロがどこまで下落するか次第でユーロ円も下落が進み、それがドル円の上値を抑えそうな状況になってきています。
やはり今回のECBの決定の本質は米国に続いて欧州圏も量的緩和の巻き戻しプロセスに正式に突入したということで、リーマンショック以来行き場がないほど緩和政策が行き届いて、そこら中に入り込んでいた余剰資金も一気に巻き戻される時期がいよいよ近づいているということを認識しなくてはなりません。
過剰流動性の巻き戻しは確実に起きそうな状況
現状の相場と2000年のITバブルの崩壊、2008年のリーマンショックの時とが大きく異なるのは、足元の状況がほぼすべての資本市場でバブルを引き起こしてしまっており、IT領域や不動産といった限定された領域のバブル崩壊とはレベルの違う域に達しているということです。
これは仮に市場が大暴落を起こさなかったとしても2月に一旦示現してひやりとさせられた相場の下落状況を超える厳しい状態はフラッシュクラッシュのような形態でここからいつでも引き起こす可能性があることを示唆しています。
とくに米国の金利上昇は借金をしたり高いレバレッジを利用して資金を投入している向きにとっては、ロールオーバー時に借り換えが難しくなることから急激に市場の投資額がしぼむリスクをかかえており、その資金の引きあげ方次第では流動性枯渇からさらなるパニック売りを引き起こす危険性がかなり高くなっているということができます。
ビットコインなどの仮想通貨によくみられる光景でだれから大口の売りを持ち込むと市場はパニックになって、ほとんどの市場参加者が売りに殺到して必要以上の相場が下落してしまうという光景がほぼすべての資本市場で見られる可能性が高まっているのです。
また新興国からの投資資金の引き上げは想像以上に早く進んでおり、またしても新興国市場が癇癪を起して大きく下げるリスクも高まりつつあります。
米中の貿易戦争がIT領域に突入すれば猛烈な株価下落も
一方米朝首脳会談の影にかくれていた米中の貿易戦争のほうは本格的な制裁合戦が始まっています。トランプ米政権は15日、中国製品に制裁関税を発動すると発表し、その対象は約1100品目、総額は約500億ドルに達すると見られています。
うち約820品目(約340億ドル分)は7月6日に第1弾として発動されることになり、中国側も即時報復措置を発動する構えを見せています。
既に航空宇宙やIT、通信ハイテク分野がこの対象に含まれはじめており、今のところ携帯電話やテレビなどはその中には入っていませんが、IT領域が全面的に関税対象になれば足元で株価の上昇を支えている米国のIT業界にも大きな打撃を与えることになり、連日最高値更新を続けるNASDAQにも暗い影をさすことが考えられます。
変化の兆しはVIXとジャンク債市場の動向
2月の米株の大幅下落時には初動の2%程度の下落でアッという間にVIX指数が跳ね上がる状況になりましたが、後追い指数のVIXが再度上昇し始めるとなるとかなり相場の下落に構える必要がでてきそうです。
またイールドハンティングから多くの資金が入り込んでいるジャンク債の市場から資金が撤退しはじめるのも相場の大幅下落を見極める大きなポイントとなりそうで、これまでにもまして相場は下方向へ動くことに十分に注意する必要があります。
相場が直面している状況は大きく変化しており、そう楽観的なものではなくなっているということだけは相当意識すべきではないでしょうか。
(この記事を書いた人:今市太郎)