国内では「2008年9月15日」に米国発で起こった世界的な市場の暴落は「リーマンショック」という呼び名で定着していますが、欧米では「世界的な金融危機」という名称が一般的になっています。
確かに言われてみればその前に「ベアー・スターンズ」は破綻していますし、大手の金融機関は潰れなくてもガタガタの状況になりましたから、リーマンブラザーズの破綻自体はその一部ともいえるわけで、世界金融危機のほうが正しい呼び名なのかもしれません。
この米国の相場暴落というのは「ほぼ10年に一度」程度の頻度で必ず相場に襲ってくる、大河の河川の氾濫のようなものです。きっかけは実に様々ではありますが、米株が大きく下落することから世界的にリスクが波及するのが定番になってきています。
この9月で前の暴落からちょうど10年にあたるわけですから、市場に長く関与しているシニアな参加者ほど次の暴落のタイミングを心配するのはよくわかるわけですが、今のところ今日、明日にも暴落が起きるとは思えない状況が継続しており、ここからの市場をどう見据えるかは大きなテーマになりつつあります。
足元の状況は過去のバブル崩壊とはわけが違う
過去の相場の暴落を挙げだしたらきりがないのが米国株式相場ですが、2000年以降でいいますと同年の「ITバブルの崩壊」も2008年の「リーマンショック」もITと不動産という特定の業界のバブル崩壊が起因して金融市場が大きく混乱したものとなっているわけです。
しかしながら足元の状況は、いわば全方位の資本市場が日米欧の中央銀行による過剰流動性によって形成されたバブルを巻き戻す形となることから、これまでに経験したことのないようなバブル崩壊に直面する可能性が高いと言えます。
先ごろIIF・国際金融協会がまとめた直近の世界全体の政府、企業、家計を含めた債務残高、つまり世の中の借金総額は「2京7000兆円」であるとの発表があり、これはある意味人類史上最大の債務残高になっていることがわかりました。
IMFの統計によると世界の名目GDPは78兆ドル、日本円にして8000兆円超のレベルですから、この数字を実現するためにGDPの3倍の借金を積み上げてやっと数字をたたき出しているという、かなり危うい状況にあることがわかります。
この債務の金利が1%上昇しただけで270兆円の金利負担を世界の国々と企業、人々が強いられるわけですから、金利の上昇は新興国のみならず世界的に大変なインパクトを与える状況になることは容易に想像できるものとなっています。
米国FRBに端を発する金融緩和政策の巻き戻しが、すでにあらゆる市場に極めて大きな影響を及ぼし始めていることは間違いありません。
ここからひとたび先進主要国で本格的なインフレが示現するようになれば、もはや中央銀行は緩和政策を打ち出すこともできなくなり大変な事態に陥ることが十分に想定できます。
果たしてそれがいつなのかはだれにも明確に予想はできませんが、そう遠くない将来に起きると考える人がリーマンショックから10年の今日、徐々に増えつつあるのは事実です。
クオンツ、パッシブファンド、アルゴの機械的売買がリスクに
2008年の危機的な金融破綻から10年、相場の状況は大きく変わり、クオンツが幅を利かせていますし、アクティブ運用よりも指数で機械が売買するパッシブ運用を行うファンドも増え、AIを実装したアルゴリズムはもはや日常的な売買の中心的存在になろうとしています。
こうしたコンピュータ中心の機械的な売買は人間の裁量取引と違い、どんなに高値でもコンピュータが上昇継続と判断すれば平気で順張りの買いを入れてくる状況で、人には真似できないような取引が中心になっています。
しかしこのような取引方法は相場が下がり始め、たとえば2%を超えるような下落が始まると、今度は全く躊躇することなく反対売買を仕掛けてきますので、必要以上に相場を下落させてしまう要因ともなりかねない状況です。
次回の相場暴落はこうした機械的売買の弊害が一気に相場に噴き出すのではないかと注意を喚起する金融アナリストも登場し始めています。株式マーケットにはリーマンショックの教訓をもとに暴落に対するサーキットブレーカーが用意され、1日で20%以上は下落しない仕組みも導入されています。
米株相場自体がかなり高い天井まできているわけですから、20%に収まる下落があっても相場は大騒ぎになることは間違いありません。
全資本市場を対象としてコンピュータ主導の「機械的売買相場」が織りなすリスク回避の売りが殺到することになると、2008年には見ることができなかった劇的な相場変動を目の当たりにするリスクが高まっているといえます。
為替相場も当然その一つなるわけで、毎日びくついていても仕方はありませんが、いよいよここから先に大きな相場変動がいきなりやってくるということだけはしっかりと想定しておく必要のある時間帯に突入しているといえます。
暴落のタイミングを当てることほど難しいものは世の中にはないと言われていますが、暴落時潤沢な資金で株を買いあさっては莫大な利益を確保する「ウォーレンバフェット」はすでに持ち株をかなり売却して現金比率高めているといいます。
市場には暴落などお構いなしで、とにかく相場についていこうとするミレニアル世代のプレーヤーとリスクを予知しはじめたレガシーなプレーヤーが混在していますが、果たしてどちらの視点が正しいのかはここからそう遠くない時期にはっきりしてくるのではいかと思う次第です。
(この記事を書いた人:今市太郎)