米国が中国に対する追加関税発動を前にして、貿易協議の開催を呼びかけたことから市場には楽観論がでて、株価は上昇しています。
トランプ政権が中国からの輸入品に対する追加関税を発動する前に、中国政府が米政権の懸念に対応する機会を与えるのが狙いという報道になっていますが、果たして本当にそんなに緩い感じなのでしょうか?
この提案に対してまだ中国は何も反応してはいませんが、ここから急に歩み寄って11月習近平が訪米したところで、一件落着というほど状況は甘くないように見えます。
トランプ政権の中国貿易制裁は製造2025叩きが真の狙い
米国は1930年台にも保護主義化を強め、多くの海外からの輸入品に関税をかけるという暴挙に出ていますが、結局市場は縮小均衡となり保護主義化は何の意味もなかったことをとうの昔に体現しています。
にも拘わらず強引に中国に対して、関税をかける措置を続けているのにはそれなりのわけがあるといえます。米国は中国を経済的な成長率は高くても、まだまだ先進国に追いつくレベルではなく、長年製品の製造労働力を提供する絶好のオフショア拠点としてみなしてきており、21世紀に入ってからもアップルは中国でiPhone製造に乗り出しています。
また、多くの米国企業のアウトソーシングが中国・大連で行われるなど賃金の安い中国の労働力を使い倒すというスキームが定着したことは事実です。
民主党のクリントン政権あたりからの中国の米国内でのロビー活動は猛烈で、この政権は中国系に企業等からの献金で成立した政権であると揶揄されるほど中国は米国の政権に接近していたことは間違いなく、その系譜をそのまま受け継いだオバマが同様の対中国政策をとってきたことも明らかです。
しかし足元の中国は最新のテクノロジー領域で米国を凌駕する存在になっており、このまま放置しておくわけにはいかないという大きな危惧の念が米国サイドに強く顕在化しているのもまた事実のようです。
トランプが強引に叩こうとしているのは単なる貿易不均衡ではなく、中国が掲げる製造2025叩きであると見ると足元の対立の構図はかなりわかりやすく見えてくることになりそうです。
しかしこのハイテク領域での中国の躍進を叩くのが目的となれば、ここからそう簡単に貿易交渉が収まりを見せるとは到底思えず、さらに延々と交渉とけん制が継続することも十分に考えられます。
中国株式は危険水域に突入
上海株式市場は下落が定常化していることからあまり騒ぎにはなっていませんが、安値を更新しておりなんとも微妙な状況が継続中です。貿易制裁について米国が本当に手心を加えることになるのかどうかはわかりませんが、すでにそれなりの影響が出始めていることだけは間違いなさそうです。
ここから11月中間選挙までにむけての米中の交渉がどのように進展するのか、あるいは対立を激化させていくかについては注意深く見守る必要がありそうです。
米国内では製造2025叩きがそれなりに評価を得ており、トランプ支持にもプラスに働いていることから、トランプ自身はそう簡単には中国を締め上げる姿勢をやめるとは思えない状況です。
米株式市場はこの制裁に相当神経質になっているようですが、結局トランプは行きつくところまで徹底的にやりあってしまうのではないかという危惧の念が高まりを見せていることは事実です。
なにより関税の適用は物価の上昇とともに消費を冷え込ませるきっかけにもなりかねないだけに、株価にももう一段の影響を及ぼすリスクが高まります。ここから当分は交渉に絡む報道のヘッドラインで相場が上下にブレそうな気配濃厚です。
(この記事を書いた人:今市太郎)