先週米10年債金利がいきなり3.2%を超えだしてきて、米債市場の状況は大きく変化しはじめています。
市場では3.5%までは確実に上昇するのではないかという見方が強まっており、夏場から延々と米10年債を売り持ちしてきた米系ファンド勢にとっては待ちに待った金利上昇タイムが示現しはじめてきたことになります。
米10年債金利上昇の理由は概ね3つ
足元で上昇しはじめた米10年債の金利には概ね3つの理由が考えられます。
パウエルFRB議長発言
パウエル議長は10月3日、アトランティック誌とアスペン・インスティチュートが共同で開催したイベントにおいて金利は依然緩和的だとしながらも、成長を加速も抑制もしない中立的な水準へとわれわれは徐々に向かっていると指摘しています。
さらに、われわれは中立を超えるかもしれない。しかし現時点では恐らく、中立金利まで長い道のりがあるとタカ派的な発言を加えたことから債券金利が上昇しはじめたきっかけになったという見方が強まっています。
なにもこのタイミングにここまでのことを言う必要があったのかという感じですが、この発言のおかげで米株の時価総額は172兆円相当が失われたという指摘もあり、中間選挙前に随分と迂闊な発言をしたものだという印象が拭えません。
大口債券保有者が売却説
市場でパウエル発言以上にまことしやかに語られ始めたのが大口米債保有者の売却です。
それまで3.05%程度を右往左往していた10年債金利がいきなり3.2%に跳ね上がるというのはやはり大口保有者が一時的に大量に売却をかけたからという見方は強く、足元でこの動きに該当するとすればやはり中国当局が売却したのではないかという説が飛び出すのはうなずける状況といえます。
これが中国人民元安を阻止する意図で行われているとすれば米国も文句のつけようがないところですが、足元ではペンス副大統領までが中国は米国中間選挙に干渉し米政府の転覆をはかろうとしているといった踏み込んだ発言をして中国をけん制しているわけですから、貿易戦争でかなり追いつめられている中国が中間選挙をターゲットにして米株の大幅下落を画策して自らの損失覚悟で米債を売っているのだとすればかなり深刻な事態に発展することが予想され、ここからの米債金利の状況が非常に注目されることになります。
原油の高騰
原油先物は週間ベースでは4週連続高となっており、イランの原油輸出問題が端を発する形で原油価格の上昇が顕在化していることもごく近い将来的にインフレが示現することへの危惧感から米債金利を押し上げる材料になっているという指摘があります。
過去の2000年ITバブル前、また2008年のリーマンショック前も原油価格が上昇してその後リセッションが到来しているだけに非常に気になる要因となってきています。
為替ではドル円がどこまで米債金利上昇に追随するかが問題
為替の視点で見た場合、この米10年債の金利上昇にドル円がどこまでついていくことになるかという問題です。
先週すでに114円台中盤まで上昇したドル円ですが、今後この10年債金利が3.5%程度まで上昇した場合、115円を超える動きを見せるのか、逆に米株が金利上昇を嫌気して売りが強くなった場合金利上昇よりも株価下落に連動して反転下落に転じるのかが非常に注目されるところです。
すでに115円は目前に迫っていますが、日米の貿易問題の交渉が進行中のこの時期日本政府としても闇雲に115円台にドル円が突っ込むことは避けたいはずで、日銀が政策金利のアローアンスを設定したことを使って金利調節を行うような債券の買い入れオペを実施した場合ドル円は簡単に上進しなくなる可能性も十分に考えられます。
ここからのドル円は上値追いの状況を見ながら上昇についていくのか戻り売りをするかを判断することが重要になりそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)