米国の株式市場は突然NYダウから、S&P、NASDAQに至るまで相場が大きく下落し、いきなり大きな調整がやってくることとなりました。それを受けて好調だった日経平均もザラ場では1000円を超える下落となり、もろにその影響を受ける形になっています。
米株の下落はファンド勢の利益確定などが理由であるといった説明も登場していますが、やはり10年債金利がいきなり上昇を始めてことが少なからず影響を与えていることは間違いないようです。
しかしツイッターなどを見ていますと、金利の絶対値が決して高いわけでもないのに多少の金利上昇でなぜここまで株式相場が下がるのかといった疑問の声を結構目にすることとなりました。
そこで今回は債券金利、とくに米国10年債利回りが上昇するとなぜ株価が下落するのかという基本的なことについて考えてみることにします。
債券金利高と株高は併存することがもちろんある
米国の株式市場の過去30年を調べてみますと、債券金利高なのに株高という状況は全体の3分の2ほど存在しており、株高は債券金利が高いと実現しないということはないことは多くの市場関係者に知られている事実となっています。
これはインフレ局面などではよく起きることで、企業の景気もいいが、債券金利も上昇するという形は決して珍しい事象ではないのです。しかし問題はじりじりと上昇する債券金利は大きな問題はないものの、いきなり高騰することがマーケットに非常に大きな影響を与えることとなってしまうのです。
今回の米10年債の利回りは短期間に0.15bpということで利率的には大したことではないと思われがちですが、債券の世界で利回りチャートが大陽線を示現するというのはかなり珍しいことで、債券がそれだけ売られて市場がシュリンクしていることを示すものとなっているわけです。
リーマンショック以降、日米欧の主要国が過剰とも思えるような金融緩和でほとんどゼロに近い金利状態を長く続けてきたことから、余剰資金はあらゆる市場に入り込む形となっていますが、金利の上昇はその後の資金調達コストを高めることになりますから、多くの上場企業は金利上昇局面では利益が張ることから業績が低下することが知られています。
また米国政府は足元で日本円にして2200兆円という巨額の債務を抱えることになっていますが、こちらも金利が上昇することによってその利子負担は爆発的に大きくなりますから、トランプがFRBの利上げによる金融政策をひどく気にしてぼろくそに言うのもわからない話ではないのです。
ちなみに日本は過去20年以上金融抑圧でインフレ率以下の金利を延々と履行してくることで借金を事実上減らす政策にでていることから、1100兆円もの国債を発行してものんびり暮らしていられるという裏事情があるのです。
米国の株式市場は借金で成立している
下記のチャートはNYSEが公表しているマージンデットに関するものですが、このチャートをひと目見ていただければお分かりの通りS&Pの株価上昇と同時にマージンデット、つまり株を購入するためにしている借金の額は一緒に膨らんでおり、株価が借金をすることで買われていることが非常によくわかる状況です。
金利の上昇局面では資金調達コストが上昇しますし、既存の借金のロールオーバーによる借り換えコストも当然上昇することになりますから、こうした借金づけの市場にとってはなんらいいことがないのがよくわかる次第です。
なにより米国のような主要国の債券金利が4%だ5%だということになってくればつまらない株を買うよりもずっと安心で安全ということになりますから、株式市場にとってはなんらいいことがないという点も理解しておかなくてはなりません。
2月の相場暴落時にも米10年債金利は急激に上昇することになりましたが、ここからさらに債券金利が上昇する事態になれば米株はさらに売られることになり、相場の上昇に完全に終止符が打たれる可能性もあるのです。
為替のトレードだけしていれば米債金利がちょっと上昇するなどということは些末な事象と思えるかも知れませんが、実は市場には非常に大きなインパクトを持っていることを忘れてはなりません。
(この記事を書いた人:今市太郎)