昨年は一旦具体的な交渉が先延ばしの格好になっていた日米の貿易交渉が、いよいよ1月20日の週からスタートすることになったようです。
しかしそれに先立つように年末の12月21日にUSTR・米通商代表部は日本との貿易協定交渉の具体的目的を公表し、物品の関税引き下げ・撤廃のみならず、自国に有利な通貨安誘導防止、通関手続き緩和など非関税障壁分野22項目を交渉対象とすることが明らかになりました。
これは昨年日本政府がしきりと強調してきたTAGと呼ばれる物品交渉とは明らかに異なるものであり、名前はどうであれ結局のところ交渉の中身はFTAであることが改めて確認される状況となってしまったのです。
とくに知的財産権の保護や電子商取引ルール、国有企業の優遇禁止、遺伝子組み換えや残留農薬を規制する衛生植物検疫措置もすべて交渉対象となるうえ、為替条項については完全に米国サイドはこの協約締結に盛り込むつもりで、おそらくどこかのタイミングで、トランプ自身が日本の為替水準について吠え始めることはほぼ間違いない状況と思われます。
自動車の輸出問題でもめて最後は為替というシナリオか
安倍政権は交渉が始まる前からF35 戦闘機を大量購入する旨を発表していますが、どんなに耳障りのいいネタを持ち出しても交渉の本丸となるのはやはり自動車の貿易赤字の問題で、まずは台数ベースの制限の問題や金額ベースの問題へと発展し、それでも解決がつかないことから結局のところドル円の為替水準に交渉の矛先が向く可能性がかなり高くなりそうです。
恐らくこの交渉の途上でトランプがツイートで介入してくることは容易に予想されますから、具体的に円安が指摘された場合果たしてどこまでドル円は円高方向に動くのかが非常に注目されることになります。
恐らく日本サイドは為替介入してドルを売って円を買うわけにはいかないでしょうから、日銀が長期国債の買い入れを調整するといったギミックを使うことで無理やり円高を示現させる可能性もあり、1月から2月にかけては相当な注意が必要になりそうです。
米国側が具体的にドル円の水準感を口にするのかどうかはわかりませんが、すでに110円レベルにあるドル円が108円や107円にさせたぐらいではドル安とは呼ばないでしょうから、おそらくは100円かそれを下回る水準を示唆される可能性もあり、ドル円の買いは年明け以降相当注意する必要があります。
ドル円はプラザ合意以降延々と政治にその為替水準が翻弄され続けて通貨ペアだけにここからトランプ政権の恫喝をうけてさらに円高に回帰することになってもそれほど驚きではありませんが、今年前半はいよいよ米国からの厳しい要求に応えて政治的に円高にせざるをえないタイミングがやってきそうです。
日本政府は断固として為替条項をこの協約に入れることを拒否していくとしていますが、実際には互角に交渉する手立てはなにもなく、為替水準については自動車の輸出台数とのバランスで結局受け入れざるを得ないというかなり厳しい局面に追い込まれそうです。
足元ではそうでなくてもドル円は円高に振れてリスク回避的な動きを強めていますが、ここからこうした政治的なファクターがのしかかってくると想定を超えた円高が示現する可能性は十分にありそうです。
需給面や相対的な関係からみるとドルは依然として強いわけですが、米国主導で無理やりドル安を演出することになればユーロも同様の動きになる危険性はあり、年明けから厄介な話がかなり顕在化してくるものと思われます。
今年ドル円は上昇したら確実に戻り売りしていくことが結構な利益機会に恵まれそうな雰囲気になりつつあります。
(この記事を書いた人:今市太郎)