米国のトランプ大統領がFRBの理事候補として指名した「スティーブン・ムーア」なる人物がさっそく米国のメディアに寄稿を行い、独自の金融政策に対する考え方を開示し話題になっています。
かねてから理事の空き枠についてトランプが自身の発想に近い人物をFRBに送り込んで統制を始めるのではないかといった見方があったわけですが、それがいよいよ現実のものになろうとしているわけです。
そもそもスティーブン・ムーアという人物とは
今回FRB理事に指名されたスティーブン・ムーア氏は議会共同経済委員会の主席エコノミスト、ヘリテージ財団のエコノミストを務め、またウォールストリート・ジャーナルの編集員も務めた経験のある経済には明るい存在といわれています。
このムーアが注目されているのはトランプ大統領の政策立案者でありトランポノミクスという本を執筆したことから、かなりのお抱えエコノミストというレッテルが張られている存在となっています。
こうしたことからムーアのFRB理事登用に関してはかなりの反対意見も飛び出しており、上院銀行委員会の指名承認を得られるのかどうかが非常に気になるところとなりつつあります。
FOMCは12名のメンバーにより構成されており、ホワイトハウスが指名する7名の理事と地区ごとに連邦準備銀行の総裁5名からなる委員会で構成されているわけですが、ムーアの投入でトランプの意向がより明確にFRBの政策決定に反映されることになるのではないかという見方が強まっているわけです。
さっそく利下げを主張
ムーア氏はまだ正式指名を受けたわけてもない時点で、さっそくニューヨークタイムスのインタビューに答え、FRBは直ちに0.5ベーシスポイントの利下げを実施すべきだと主張してかなりの注目を集めています。
米大統領経済諮問委員会(CEA)のハセット委員長はムーア氏が正式にFRB理事の候補者になった場合には評論家としての発言を控え、承認に向けた準備を始めるはずであるとしてある種のけん制発言をし始めています。
このムーア氏はクドローNEC委員長の友人でもあるそうで、同氏が正式にFRB理事になった場合、かなりトランプを忖度する発言を繰り出してくることも想定されるだけに正式に起用されるのかどうかに市場の関心が高まっているようです。
実際債券市場では今年の12月までにFRBが利下げを行う可能性が70%を超える状況で、かなり利下げが織り込まれているだけに、そのとおりになるのかどうかについてはこれからも大きな注目を浴びそうです。
FRBは政権と中立な関係というのは幻想
先進主要国の中央銀行は政権の政策とは関係なく、独立的な存在であると金融市場関係者はいつもまことしやかに語りますが、ここのところの日米の中央銀行の動きを見ていますと、まったくそれが嘘であることが日々露見してしまう状況であり、むしろ時の政権とかなり一体化した動きをすることが明確に示現されてきています。
最近180度発言内容を変えたパウエルFRB議長もバーナンキ時代にFRBで真っ先にQEをやめるべきだと常に主張してきた存在ですから、足元のこの人物の発言の方向転換にはなんらかの圧力がかかったのはほぼ間違いなさそうです。
しかも政権意向にぴったり沿った形になってしまって点は見逃すことができません。去る2月4日、パウエルと副議長のクラリダはトランプと非公式な夕食会を実施します。
FRBのアナウンスでは、トランプ大統領の招待によるもので、最近の経済情勢や成長・雇用・インフレの見通しに関して話し合ったとされていますが、まあ言うことを聞いたので論功行賞のように手打ちで食事をしたというのが正直なところなのでしょう。
さらに今回ムーアが理事に送り込まれることでますますFRBはトランプの言うことを聞かざるを得ない組織になりそうで、バブル相場を延命するために手練手管の緩和策を導入することになるのかどうかも注目されそうです。
(この記事を書いた人:今市太郎)