ゴールドマンサックスが今月初旬レポートを発表しております。
それによりますと、米国株式市場を2010年から支えているのは確実に企業の自社株買いであり、これがなんらかの理由で終焉した場合、足元の強気相場がさらに上昇する要因大きな一つが失われることになるといった指摘をしており、市場で話題になりなじめています。
FRBの開示データから分析したレポート
「A World Without Buybacks」と名付けられた今回のレポートでは、すべての売買データはFRBが開示しているオープンデータをもとにしている点がかなりの信憑性を醸し出す結果になっています。
それによりますと、2010年以降の自社株買いはリアルな数字をもとにして年間4200億ドル、日本円でなんと46兆8000億円弱に至っており、個人世帯、投資信託、年金、外人投資家の購入がそれぞれ100億ドル未満であったことと比較すればそのほかの投資全体と比べても莫大な額であることがわかります。
日銀の国内におけるETF買いが年間6兆円ですから、年間で多少の凸凹はあるにせよコンスタントにこの9年あまり47兆円弱の金額が自社株買いとして動いてきたのはかなり大きなインパクトがあったといえる数字です。
data ゴールドマンサックス
経営者の収入のためだけに買い付けしているとの批判も
この米系企業の自社株買いは確かに自社の株価を高めたいという純粋な理由もあるものの、その一方でストックオプションを大量に付与されている、各企業のCEOをはじめとするCクラスの人々が自らのストックオプションの価値を高めるために行っているとという批判もかなり高まりを見せてきております。
これが結果的に富の偏在につながるという厳しい見方が米国内では支配的になってきているのです。
2020年の大統領選に向けて各候補者も企業の自社株買いを規制すべきといった意見を出し始めており、共和党からも民主党からもそれに賛成する意見が出てきていることから、今後議会で法的な規制がではじめると状況は一変することが予想されます。
自社株買いがなくなると相場には大打撃
ここ数年の米国企業の自社株買いは金利が限りなくゼロに近いことを背景にして社債を発行してはその資金を利用して自社株買いを断行するという、典型的な両建てによる実現を果たしてきています。
したがって株価が何等かの原因で大きく下落することになるのは手元に残るのは償還しなくてはならない借金だけで、万が一格付けが下がるようなことになれば莫大のジャンク債市場ができ上がる点も自社株買いと一蓮托生の大きな問題になりつつあります。
リーマンショックから10年半が経過し、この10年で米国ではジャンク債一歩手前のBBB格債の割合は大きく増加しています。
BIS・国際決済銀行のレポートでは欧米では2010年に20%だったBBB格債の割合が2018年には45%にまで拡大しており、上述の企業の莫大な自社株買いが市場に示現したのと時を同じくして、このジャンク債の手前ぎりぎりのところにある社債の市場が大きく広がりイールドハンティングする金融機関が買い支えているというかなり不健全な市場が継続中です。
こうしてみますと米国企業の自社株買いに何等かの規制が入った場合株式市場のみならず社債市場にもそれなりの影響がでることが予想されるため、かなり注意してみていく必要がありそうです。
米国株はとにかくこの10年猛烈な勢いで上昇してきたわけですが、こうしたからくりを知ってしまいますと日経平均が上昇しないだけのことはあることをあらためて思い知らされることとなり、かなり残念な気分です。
(この記事を書いた人:今市太郎)