先週ドル円の週の動きが今世紀最小規模の一週間で「48銭程度」にとどまることとなりました。これは1985年の「プラザ合意」以降のドル円相場の中でもベスト5入りするほどの狭い動きで、いつ相場をみても112円前後で動かない時間帯が延々と続くこととなりました。
もちろん前後にあるオプションが行く手を阻んだことも事実ですが、どうもこれにはそれなりの要因が重なり合って示現していることが窺わる状況です。
リスクオフでもリスクオンでもドル高がひとつの原因
足元の相場ではリスクオフになってもリスクオンになっても延々とドル高が続いているという不思議な状況が見られます。これはまず米国の債券金利が新興国と比べても高いことから買われやすいという基盤があります。
それに加えて、ユーロ圏は経済的な不安が残ることから、どうしてもユーロ売りドル買いが進みやすいこと、資金が米国の金融市場に集まりやすいことからドル買いが安定的に出ていることなどが背景にあるように思われます。
アルゴリズムがリスクオン・リスクオフをわかりにくくしている
アルゴリズムが相場で四六時中動きまわっていることから、AI実装のものも含めてリスクセンチメントが猫の目のように変化しまくっているのが、足元の相場のひとつの原因となっているようです。
人間の裁量取引のようにリスクオフとリスクオンが大きく分かれている一昔前の判断とは異なり、年がら年中機械の取引はリスクオンとオフを繰り返していることから、人間が感じるリスクオンとオフの印象に相場が連動しなくなっているのはどうやら間違いない状況です。
相場の動きの説明には相変わらずリスクオン、リスクオフという表現が登場していますが、リアルな相場はそんな風には動いていないというのもまた事実のようです。
またどうみてもリスク材料と思われることも、本当に問題が起きてニュースのヘッドラインに大きく登場しないかぎり相場が反応しないという最近の動きもアルゴリズムとなんらかの関係がありそうです。
国内のドル買い需要もドル円相場の下落を猛烈に防いでいる
直近のドル円相場に対して国内からの実需として、非常に大きな影響を及ぼしているのが本邦企業の対外投資です。
さまざまな業種において国内でのビジネスではやっていかれない企業がM&Aによる成長をはかるために、積極的に対外投資を行うことがドル円の価格をかなり下値で維持していることもドル円が動かないひとつの要因のようです。
さらに本邦金融機関が外債投資を積極化させ、しかもリスクを顧みず為替のヘッジをつけずに裸でドル円を買って、それを外債投資に充てていることもドル円を妙に安定化させている状況のようです。
ただし、こちらの本邦金融機関、機関投資家の外債投資のほうは債券市場が大きく下落するような状況下では一斉に売られて、円転して資金が国内に戻ってきます。
ですから、長い目で見ると一方的ドル円が買われる材料ではなく、ここ数年でも米債が大きく下落した局面では投資に失敗した地銀などの資金を引き揚げますから、米国を始めとした債券市場の相場下落は、逆に円高に向かいやすいということも考えられます。
低ボラのあとに大きく動く相場に注意
ブルームバーグによると過去25年間のドル円では3回のボラティリティの谷があり、3回とも米ドル指数はその後の6カ月に10%以上変動しているとされています。
その3回とは、
■1996年の低ボラティリティーの後の6カ月にはドルが10%余り上昇。
■2014年は15%以上値上がり。
■2007年の場合は10%を超える下落に見舞われています。
こうしてみると動かない相場の先には大きな変動があることは間違いなさそうで、しかも上に動くか下に動くかはわかりませんから、今のうちから備えが必要な時間帯に入ってきているともいえるのです。いずれにしてもこの相場がいつまで続くのか慎重に見守りたいところです。
(この記事を書いた人:今市太郎)