経済新聞やニュースなどで定期的によく耳にするのが「貿易収支」という言葉です。
これは文字通り一国の貿易における収支を表したもので、輸出金額と輸出金額の差額のことを表すものです。輸出金額が輸入金額を大幅に上回る状態は「貿易黒字」と呼びますし、逆に輸入金額が輸出金額を上回る事態になれば「貿易赤字」に陥ることになります。
貿易収支は為替の基本的な部分に大きく影響するもの
実は「貿易収支」の内容というのは、為替に大きな影響を与えるものとなることがわかっています。
たとえばドル円でいえば全体の為替取引の1割足らずが「実需」の取引となりますが、多くの「投機的」な取引は売ったものはどこかで買い戻し、逆に買ったものはどこかで売るという反対売買をしなくては利益が上げられませんから、トランザクションのボリュームはあっても、一番相場に影響がでるのは買いきり、売り切りとなる「実需部分」ということになるのです。
貿易収支が増えれば、貿易相手国から外貨として受け取る量が増えますので、円転するために外貨を売り日本円を買うため円高となります。
また逆に「貿易赤字」が増えてしまいますと円を売ってドルを買わなくては決済できなくなりますから、自ずと円安傾向になるものなのです。
したがって「貿易収支の推移」は為替取引を考える上ではかなり重要なファクターとなっていることがわかります。
日本の貿易収支は一体どうなっているのか?
日本の貿易収支は、長年黒字で推移してきたことで有名な国でしたが、2008年の「リーマン・ショック」後に赤字に転落し、その後いったんは回復したものの、2011年の東日本大震災後に原発がとまるなどしてエネルギー輸入が大きく膨らんだことから再び赤字に転じ、一部の月を除いて「貿易赤字」が続いてきました。
2013年には年間で13兆円ほどの貿易赤字となったことから、円安にも大きく寄与することとなりましたが、直近では原油価格が大幅に下落したことを受けて赤字額は激減しており、四半期ベースでみますと黒字になる期が増えつつある状況です。
2016年5月の貿易統計速報(通関ベース)は、407億円の赤字となっており、赤字は4カ月ぶりを記録しています。
原油価格の下落などで輸入額は引き続き減少したものの、中国を震源とする世界的な供給過剰が続く鉄鋼などを中心に輸出が振るわなかったことが起因しているとのことで、やはり輸出額が大きく増加していかないと貿易収支は安定的に黒字にならないことを示唆しているといえます。
出典:時事ドットコム
長期の円高で産業構造が変化したことが貿易収支にも影響
日本は戦後商品の輸出国として長期に渡って貿易黒字を確保できる国に成長しましたが、90年代後半から円高状況に多くの製造業種が苦しめられることになり、為替のレートに影響を受けないように海外に生産拠点を大幅に移転することとなりました。
つまり、日本からの輸出というものがかなり減ったことが貿易収支に大きな影響を与えることになったのです。
ただ海外で獲得する利益は大きくなっていますので、経常収支全体でみれば決して利益が減ったわけではないという、多少複雑な構造を抱えていることがわかります。
米国は長年の貿易赤字国状態がかなり解消
貿易赤字というともっとも気になるのが「慢性的な赤字国」だったアメリカの存在になります。
1991年に瞬間的に黒字転換した米国の経常収支は、1992年には再度赤字に転じ、1997年までの5年間は概ね年率21.5%赤字拡大線に沿って赤字を拡大し続けました。
また1998年以降2006年までの8年間は概ね、年率21.5%赤字拡大線を超える大きな赤字拡大を続けましたが、2007年以降は経常収支赤字縮小に転じ、2013年までの7年間は概ね年率9.0%赤字縮小線よりも大きく赤字縮小が進んでいることがわかります。
ひとつは「シェールガス」の算出がはじまり、中東に依存しないてもエネルギーを自国で供給できるようになったことが、大きな変化と見られています。
今や米国は世界有数の産油国になってきていますので、エネルギー関連で外貨を使うチャンスが大きく減少していることもこうした収支を改善させています。
欧州の貿易収支は改善傾向
欧州の貿易収支は2012年、13年に比べるとかなり回復傾向にあることがわかります。
ただ、欧州圏でみてしまうとよくわからなくなりますが、貿易黒字のかなりの部分をドイツが稼いでいるだけで、調子がいいかどうかは専らドイツの貿易収支次第のところがあり、この基本的な構造はまったく変わっていない状況です。
欧州経済は依然としてドイツに対する依存度が多く、ユーロが下落するとドイツがもっとも利益を享受できるという、ある意味でかなりバイアスがかかった経済状態が継続していることがわかります。
こうした状況にはユーロ圏の中でも不満が多く、実はEUは外からみていたのではわかりにくい複雑な問題を抱えていることがわかります。
このように貿易収支は先進国といえども各国それぞれの状況を抱えていることがわかります。
しかしひとつだけ明確なのは黒字国はその通貨が高くなる傾向にあることで、ドル円で考えれば貿易赤字が解消していくことになるとさらに円高へと回帰することが考えられるようになるのです。
貿易収支の内容は為替取引にとっては、非常に基本的な部分で大きな影響を与え続けていることがあらためて理解できます。