為替市場の変動は様々な要因によって起こりますが、その一つに各国要人の発言も含まれています。
先進主要国の要人発言でとんでもない波乱波乱相場が示現するケースというのは結構あるものです。
最も乱高下するのは予期せぬ要人の発言です。当たり前のことですが、要人といっても普通の人間です。今まで言っていた事と全く逆の事を言いだしたり、突拍子も無い事を言いだしたり、言葉が足りずに失言になってしまう事もあります。
そのような、要人の発言に対して、為替市場が大きく変動する可能性があるのです。
最近起きた事例を見てみますと、どちらかといえば政策にダイレクトに影響を与える「
中央銀行」の総裁やその関係者の発言がとんでもないことになるケースが多いようで、相場が大きく動いてしまい取り返しのつかない事態に追い込まれるケースが頻繁に見られるようになってきています。
日本では総理大臣もしっかりやらかしてくれており、政治家の発言も見逃せない状況になってきています。この項目ではそんな具体的なケースをご紹介しながら話を進めていくことにします。
相場を動かす要人とは誰の事?
そもそも、相場を動かすほど影響力、発言力を持つ要人というのは一体どのような人の事を指すのでしょうか。
日本では「日銀総裁」などがそれに当たります。他にも日銀副総裁や財務大臣、財務長官、財務官など、金融に関わる人物の発言により相場が動く事があります。
その為、金融に関わる要人が発言する際にはリアルタイムでその内容を聞く、というのが一番のリスク軽減となります。それでは、実施に要人発言がきっかけで相場が大きく動いた事例を何個かピックアップしてみたいと思います。
記者会見での迂闊な一言で400PIPSもユーロドルの上昇を招いたECBドラギ発言
直近の要人発言でもっともインパクトが大きかったのは2016年3月10日の「ECB理事会」の決定内容公表後に行われた「ドラギ総裁」の会見です。
主要政策金利のリファイナンス金利を0.05%から0.00%に引き下げるとともに、上限金利の限界貸出金利も0.3%から0.25%に引き下げ、下限金利の中銀預金金利はマイナス0.3%から、市場予想通りマイナス0.4%に引き下げました。
さらに資産買い入れ規模も月間600億ユーロから800億ユーロに拡大させることにしたことから、緩和内容てんこ盛りの状況を市場は好感し、ユーロドルは「
ECB」の期待通り大きく下げて1.08に近づく勢いで下落しました。
しかしその後に開催された定例の記者会見上、不用意に「
ドラギ総裁」が放った一言で相場は大逆走をはじめることとなってしまったのです。
迂闊にも「今後一段の金利引き下げが必要になるとは思わないと」、まあ本当のことをつい記者の質問に答えて言ってしまったのです。
これにより、売られていたユーロが急反発し、対ドルEUR=で1.11ドルの水準を突破し「
LONDON FIX」後の日本時間午前2時すぎには1.12まで値を戻す猛烈なショートカバーの展開となってしまいました。
1.08127から1.12176までの戻しですから、ざっと400PIPSほど跳ね上がる形となり、買いに飛び乗った個人投資家は数時間で大儲けにありつくこととなったのです。
安倍総理の米紙インタビュー記事掲載で大幅円高
要人発言ということでは、「安倍首相」も結構失敗をしています。安倍晋三首相は今年4月5日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答える形で「外国為替市場での恣意(しい)的な介入は控えるべきだ」と述べてしまいました。
これは2月の「G20」サミットでも声明として出ていることですから、それ自体はたいしたことではありませんでした。
しかし、相場が円高に大きく振れ始めたちょうどその絶好のタイミングに、各国が輸出競争力をつけるため通貨を切り下げる「通貨安競争」について、「いかなる環境にあろうと避けないといけない」と語ったことが掲載されたことから、同日のニューヨーク外国為替市場の円相場は約1年5カ月ぶりに1ドル=109円台の円高水準に上昇するという大きな失敗を招いてしまいました。
海外メディアなどの取材では、すぐに掲載されるわけではないリスクをもっとよく考えるべきだったはずですが、奇しくも円高局面に円高を容認するかのような内容が出たことで相場はいいように下落してしまいました。
浜田内閣官房参与の不用意な発言も英語ニュースに登場した途端円高に
2015年4月13日、「アベノミクス」のブレーンとされる「浜田内閣参与」が円安のレベルについて語っていた内容が、夜の10時前に英語ニュースとしてヘッドラインに登場した途端、ドル円は瞬間的に大きく下落。
さらに上昇を窺う動きとなっていたところに、こうしたニュース報道が出たことから120円台前半で低迷することとなりました。
まあ今思えば120円台で低迷などという言葉遣いはあまりにも違和感がありますが、メディアを通じることによりその露出タイミングから大きな影響を与えてしまうことが、実は日本の要人には非常に多いことがわかります。
ヘッジファンドとのディナーで余分なことを口走ったECBクーレ理事
メディア報道が絡むネタではこんなことも起きています。2015年5月19日ECBクーレ理事が、夏の閑散期の訪れる前にECが資産購入プログラムの実行を前倒しに行うと語ったことが報道されたことから、いきなりユーロドルは100ポイント以上大幅下落を示現しました。
ところがこれは当日の朝に語られたものではなく、前日の18日にロンドンのバークレーホテルで「
ヘッジファンド」の関係者を招待して行われたディナーの席上に行われたスピーチの内容であったのです。
投資コミュニティとの対話という役割は果たしているものの「
ヘッジファンド」だけに先行してこうした情報が提供されること自体、市場への機会均等の原則から著しく逸脱しているとの非難が高まってしまいました。
「
ECB」は公表遅れの手違いを認めながらも、チャタムハウスルールの適用対象を主張。
チャタムハウスルールとは、会議の参加者に遵守が求められることがあるルールの一つで、UKのシンクタンク、チャタムハウス(王立国際問題研究所)で採用されたことに由来するものです。
参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができるが、その発言者を特定する情報は伏せなければならないという不文律に基づいていると苦しい主張を展開することになりました。
こうしたルールがあるとはいえ、「
ヘッジファンド」にだけ先行して「
ECB」はこうした情報を流しているのか?ということでクーレ理事に批難が集まったことは言うまでもありません。
メディアが間に介在することで騒ぎが大きくなることが多い
このように要人発言のトラブルは実に多岐にわたっており、挙げだしたらきりがないほど多いものとなっています。
特に気をつけなくてはならないのは本人が語った内容は正しくてもメ、ディアに露出されるタイミングがよろしくない場合や、翻訳されて多言語で配信されたときに誤解を招くような内容になっていると、とんでもないことが起きてしまうのです。
この世界は外国人も日本人も同様にリスクを持っていますが、日本人の要人の場合には海外にどのような形で伝わることになるのかについてほとんど想定せずに答えていることが多く、リスクはその分さらに大きくなる傾向があります。
広報を担当する人物のレベルの問題も少なからず関係しているようにも見えます。
メディア露出を逆手にとって発言のバランスをとるFRBの巧みな方法
こうした要人発言のインパクトを逆に巧みに利用する動きも見られます。
それが最近における「
米国FRB」の動きです。「
FRB」は昨年12月にとうとう利上げを実施し、2016年もあと何回利上げが行われるのかが常に市場の大きな関心事となっています。
「
FRB理事会」が近づくとブラックアウト期間といって構成メンバーは何も語れない時期がるのですが、それを超えた時期になると各地区連銀の総裁が、やたらと利上げに積極的で来月にもありそうな話を講演会で連発するようになり、常に市場に利上げの可能性があることを伝え続けています。
しかし「イエレン議長」が講演をすると、このトーンが「ハト派」に戻り、株価はまた上昇、ドルは下落といったローテーションが続くこととなるのです。
「
日銀」や「
ECB」は市場のサプライズを狙うあまり、コミュニケーションを蜜にとってコンセンサスを形成するというやり方をとっていませんが、「
FRB」の場合はこうしたメディア露出による要人発言で常にバランスをとりながら利上げ時期をうまく市場に伝えようとする動きを展開しているのです。
このように要人発言には裏のある作為的なものもあれば、迂闊に本当のことを言ってしまって大失敗しているケースもあり、その場で真意を見抜くことは難しくなりますが、ただひとつだけいえることは相場はそれで動いているということです。
個人投資家の我々にとっては、要人発言から出る動きにしっかりついていくことしか選択肢はありませんが、常にこうした動きに気を配っていると利益を上げるチャンスに遭遇することもできるようになるのです。
急に相場が下落し始め、そのうち回復するだろうと放置しておいたらとんでもない事になった、しかも原因は不明、なんていう経験をした人も中にはいるでしょう。
そういう場合、要人の発言による影響という事も充分考えられます。特に「
FRB議長」の発言などはたった一言でも相場を大きく揺らす事があるので要注意です。
FX取引をする上では、要人発言を見逃さずに把握するかという事が重要となってきます。要人の発言は突然行われるという事は殆どなく、事前に発言する時間というのが決まっています。
要人が発言する時間ですが、これは自身が利用しているFX会社の情報などをチェックすれば分かります。FX会社によっては、取引画面上で世界の動向や、要人発言情報などを流している会社もあります。
毎回大した発言もしない要人だから、と安易に考えていると、とんでもないしっぺ返しを食らう可能性もあるので十分な注意が必要です。