統計指標の1つに、GDP成長率があります。GDP成長率とは、GDPが1年前と比べてどのくらい増えたのかを示す割合です。「経済成長率」という時にはGDP成長率を指しているのが一般的です。
では、GDP成長率は為替とどのような関係があるのでしょうか。具体的な事例を交えながら見ていきましょう。
経済成長が進めば通貨高に
GDP成長率が高い国の経済は、大きく成長しているといえます。そして、経済成長が進む国の通貨は高くなる傾向があります。例えば、かつては1ドル=360円の「固定為替相場」だった日本円は、現在1ドル=110円程度で推移しています。
「円安になった」といわれていた昨年でも1ドル=125円程度であり、1ドル=360円時代と比べれば、大幅な円高水準にあることがわかります。
また、直近では成長が鈍化しているものの、高い経済成長を続けてきた中国では、人民元が徐々に切り上げられてきました。こうした日本や中国の事例から、経済成長とともに通貨高が進むことが理解できます。では、なぜ経済が成長すると通貨高になるのかを見ていきましょう。
経済成長で通貨高となる理由
経済成長を遂げている国では、投資が過熱しがちです。そこで、過度な投資を抑えるべく、金利が引き上げられることがあります。高金利国の通貨は利回りが良いことから多くの資金が流入する要因となります。ただし、金利がいつまでも高いわけではありません。
日本が「マイナス金利」状態になっても、為替レートが1ドル=360円に戻っていないことから、金利だけが通貨高の要因ではないことがわかります。
むしろ、中長期的には別の要因があると考えられます。その要因の1つが、通貨の信頼性です。経済成長をすれば、国に対する信頼度が高まります。
先進国は発展途上国と比べて経済が崩壊するリスクが低いといえます。外貨の獲得手段も豊富です。したがって、通貨が紙切れになるリスクも低くなります。債券でいえば「デフォルトリスク」が低いことと同じです。
「デフォルトリスク」が低い債券は利率が低く、価格は高くなります。このことから、経済成長によって発行国への信頼が高まり、通貨高になることがわかります。
日本のGDP成長率と為替
日本では5月に発表されたGDP成長率の値が、市場コンセンサスを上回っていました。GDP成長率が上向いたのは「うるう年効果」だとする論調もあり、確かに一理あります。しかし、突然うるう年効果が判明したわけではありません。
市場コンセンサスにもうるう年効果はおりこまれていたといえます。したがって、予想以上に良かったGDP成長率だったことがわかります。
ところが、円の為替レートや日経平均株価は大きな影響を受けませんでした。というのも、日本のGDP成長率が今後もさらに上向いていくとは考えづらいからです。
このように、日本のGDP成長率はあまり為替レートに影響を与えないことがあります。
むしろ、「金融政策」の変更や財政政策の活発化などが発表された場合のほうが、為替レートが大きく変動する傾向が近年みられます。
先進国となり低成長になると、GDP成長率が為替レートに与える影響は小さくなっています。あくまでもGDP成長率が高いと通貨高になる、という為替レートの動きは中長期的なものだと理解しておきましょう。
政策期待など他の要因にも注目
日本をはじめとする先進国では、GDP成長率の統計が直接的に為替レートに与える影響は比較的小さいです。しかし、GDP成長率をベースに「金融政策」の変更が見込まれる場合などは要注意です。
例えば、現在のアメリカであれば、利上げの時期や上げ幅に対する影響、日本であれば消費増税の時期に対する影響が生じ、結果的に相場を大きく動かす要因になる可能性があります。
このほかにも、GDP成長率を高めるために新たな政策が導入されるなどした場合は、GDP成長率の統計が間接的に為替レートを動かすことが考えられます。