株式や為替の世界において有名な格言に「セルインメイ(Sell in May)」があります。
意味はそのものずばり「5月に売れ」です。今年も5月になり、「セルインメイ」がささやかれるようになってきました。今年の相場も果たして「セルインメイ」の格言通りの展開になるのか予想します。
なぜ5月に売れと言われるのか
そもそも「セルインメイ」とは、アメリカの株式市場で広がった格言です。
正確には「Sell in May, and go away; don’t come back until St Leger day. 」
「5月に株を売って市場から離れなさい。そして、セント・レジャー・デイ(9月の第二土曜日)まで戻ってくるな」という意味になります。
「セント・レジャー・デイ」とは、競馬の大きなレースが行われる日です。そもそも、なぜ5月に売って9月の第二土曜日まで戻ってきてはいけないのでしょうか。
格言ですので明確な根拠があるわけではないのですが、考えられる理由はあります。
それは、欧米では6月から9月にかけてバカンスシーズンに入り、市場参加者が減ることです。市場参加者が少なくなれば取引量も少なくなり、流動性が低下します。
流動性が低下すると基本的にはわずかな値動きにとどまるものの、ちょっとしたきっかけで大きく動いてしまうことがあるため、リスクが高くなるのです。
それを避けるため、バカンスシーズンは取引するなと言われている可能性があります。また、近年の市場で大きな影響をもつ「ヘッジファンド」の決算が5月に集中しているという事情も関係ありそうです。
「ヘッジファンド」がこの前後で利益や損失の確定をおこなうため、市場に影響を与えやすいとも言われています。もっとも、これらは長期休暇の少ない日本人的な解釈かもしれません。
「バカンスシーズンくらい市場から離れてゆっくり休みなさい。」その程度の意味合いなのかもしれませんね。
2016年5月相場はすでに波乱含み
さて、それでは2016年の5月相場で「セルインメイ」と呼ぶにふさわしい展開はやってくるのでしょうか。
本記事を執筆しているのは5月のなかばですが、ドル円に関して言えばすでに4月終わりからゴールデンウィークにかけて一相場ありましたね。
4月の終わり、ブルームバーグ社の「日銀が銀行に貸し出す金利をマイナスにすることを検討」との報道を受け、ドル円相場は急騰しました。
一時112円手前まで上昇したのですが、肝心の日銀会合は現状維持のゼロ回答。過剰に期待が高まっていたことから失望を招き、ドル円はゴールデンウィーク中に105円台にまで下落しました。
なお、この下落にはアメリカの為替報告書も関係しています。半期に一度財務省から議会に提出される為替報告書では、世界各国の通貨当局を「監視」し、意図的に通貨を操作しているような実態がないかチェックしています。
もっとも重大とされる「為替操作国」に認定された国はありませんでしたが、日本はドイツ、中国などとともに「監視国」リスト入りとなりました。
その後は麻生財務大臣による、「過度の為替変動は好ましくない」「アメリカによって日本の介入が制限されることはない」などの発言があり、ある程度の落ちつきを取り戻しています。
サミットが重要局面になるか
今後の展開ですが、主に日本側の政治日程が大きく関わってきそうです。
ご存知の通り、5月26日、27日には「G7」各国首脳を招いての「伊勢志摩サミット」が開催されます。
「安倍首相」はゴールデンウィークの期間を利用して、欧州各国を歴訪し首脳会談を重ねました。世界経済立て直しのために財政出動を求めるためのものでしたが、ドイツ、イギリスでは色よい返事がもらえなかったようです。
サミットで協調した財政出動に合意し、これを口実に消費増税の延期、大規模な経済対策に打って出るというシナリオも囁かれていただけに、「安倍首相」にとっては厳しい結果となりました。
今回のサミットにおいてはいわゆる「パナマ文書」流出から始まったタクスヘイブン問題、6月に国民投票が行われるイギリスのEU独立問題や、欧州難民問題など、サミットで議論されるであろうテーマは多岐にわたります。
「安倍首相」の思惑通り、財政出動に関して合意がなされる可能性は極めて低いのが現状でしょう。
消費増税延期はもはやサプライズではない
それでも、7月に参議院選を控える安倍首相が、消費増税の延期と大規模な経済対策をセットで打ち出すのは既定路線とされています。
その時期が5月になるのか6月になるのかは分かりませんが、その内容が想定内であれば失望を招いて株式市場やドル円相場の下落を促す可能性はありそうです。
もちろん、その内容が市場の期待を上回る可能性がないわけではありませんが、その場合でも材料出尽くしでの売りに警戒する必要があるでしょう。「セルインメイ」はもちろんのこと、参議院選が終わるまでは気の休まらない展開になるかもしれません。