為替関連のニュースを見ていると、「ミセス・ワタナベ」という言葉に出くわします。直訳すると「渡辺夫人」となるでしょうか。今回は気になる為替用語、ミセス・ワタナベについてお話しします。
ミセス・ワタナベの正体
早速ですが、ミセス・ワタナベの正体をお話しましょう。「ミセス・ワタナベ」とは、日本の個人投資家を指す用語なのです。語源を探ると、2007年発売のイギリスの雑誌、「エコノミスト」にたどり着きます。
当時、昼から午後の早い時間帯にかけて、為替相場がそれまでの流れと反対に動く様子がしばしば観測されました。その原因を探っていくと、どうやら日本人の主婦やサラリーマンが、昼休みの時間帯に反対売買を行っていたことが明らかになったのです。
多くの普通の主婦がFX取引を行うことに衝撃を受けたエコノミスト誌が、当時イギリスで一般的な日本人の苗字とされていた「ワタナベ」と合わせ、ミセス・ワタナベと呼びました。
大口の投資家と比べれば資金量は小さいものですが、FX取引はレバレッジを効かせ所持金の何倍もの取引ができます。そのため、その存在は決して無視できないものなのですね。
特別にこれらの名前がつけられた事自体、日本の個人FX投資家の存在感を示す証拠と言えます。
円安相場で存在感を示したミセス・ワタナベ
「ミセス・ワタナベ」という言葉が広がり始めた当時、その取引手法として言われていたのは「円を売って高金利通貨を買う」、いわゆる「円キャリー取引」でした。
2004年から始まった円安相場では、3年間の間にドル円が25円程度上昇するなど、「円を売っていれば儲かる」相場でした。特に人気のあった通貨ペアはドル円のほか、スワップ狙いの豪ドル円でした。
いかにもおいしい話に見えるこの相場環境下で、書店には「簡単に儲かる」「1日○分で月収超え」などの本が溢れました。「FX取引で1億以上脱税した主婦」なんていう話も出てきて、そういった雰囲気の中でFXに参戦した個人投資家も多かったことでしょう。
ただしご承知の通り、こんなおいしい相場は長く続くことはありません。2007年秋に勃発した「サブプライム問題」で相場は崩壊します。「円を売れば儲かる」の信念のもと、円高局面においても戻ることを信じて円を売り続けた「ミセス・ワタナベ」は、大きな損失を被ったのでした。
その後も2009年のリーマン・ショック、2010年のギリシャ金融危機、2011年の東日本大震災を経て1ドル75円台にまで円高が進み、ミセス・ワタナベの存在はすっかり目立たなくなっていました。
円売りで稼ぎ、逆張りで損したアベノミクス相場
そして2012年。「ミセス・ワタナベ」の得意技、円キャリートレードが再び日の目を見る時がやって来ました。安倍首相就任に伴う一連の「アベノミクス相場」です。「日本銀行」の「黒田総裁」による大規模な「金融緩和」が円相場を押し上げ、2015年までにドル円は125円に達しました。
この流れの中で、当初はミセス・ワタナベも円売りポジションを形成し、順調に利益を積み上げてきました。ただし、120円前後で何度も跳ね返される過程で上値の重さを嫌気したのか、この水準ではドル円を売るポジションを形成しました。
2015年5月に、120円をはっきり抜けて125円に達する過程で、ミセス・ワタナベは流れに逆らいドル円を売り続けます。ミセス・ワタナベの逆張り志向が注目されたのはこの頃からでしょうか。
言うまでもなく、逆張り戦術は相場が一定のレンジで推移しているときは非常に優れたパフォーマンスを示します。一方で、そのような逆張りポジションをエネルギーにしてレンジを突き破るストップ狩りの標的になることもあり、それが炸裂したのが2015年5月の相場であったと言えます。
彼らのポジション動向を公開しているFX会社もありますので、その動向に注目する価値は十分にありそうです。