中国では「“実体経済”と乖離した株の上昇が・・・」や「“実体経済”が想定以上に悪化して・・・」 などと使われる「実体経済」ですが、ぼんやりとは掴んでいるものの、では「実体経済とは」と問われると説明が難しいのではないでしょうか。
今回は、「実体経済」とその対極にある「金融経済」についての整理と、それぞれがマーケットに与える影響について考察していきたいと思います。
日常生活の中でのお金のやり取りが「実体経済」
私たちは日常生活の中で、様々な商品やサービスを購入し対価としてお金を支払っています。
実体経済とは、そのような「モノを買ったり、サービスを受けたりする場合のお金のやり取り」のことです。目に見える形でモノやサービスとお金の交換が行われているのが「実体経済」の特徴です。
経済状態を判断する上で定期的に発表される様々な指標は、この「実体経済」の状況を表したものとなっています。例えば、「GDP(国内総生産)」や「消費者物価指数」といったものは実際の経済活動を表現した「実体経済」の代表的な指標です。
お金を増やすための活動が「金融経済」
一方、我々は商品・サービスの購入のためだけにお金のやり取りをしている訳ではありません。
例えば、当サイトを閲覧しているユーザーの多くはFX投資によって利益を上げようと投資をしています。そのように「お金を増やすために、お金を商品と見なして売買する行為」のことを「金融経済」と呼んでいます。
先ほどのFXをはじめ、株式などの金融商品に投資する行為は金融経済に属する行為です。そういった意味では、微々たるものながら利息が生まれる銀行預金等も金融経済です。
「実体経済」と「金融経済」の比率と影響力
いいか悪いかは置いておいて、健全な経済活動とはまず「実体経済」ありきであることは理解できると思います。実体経済をあまりに乖離した金融経済の状態がいわゆる「バブル」と言われる現象であり、皆が「お金を増やすためにお金を売買する状態」となります。
この現象はベースとなる保証がないため、市場参加者の恐怖感等であっという間に崩壊するリスクを抱えることになります。
このように実体経済と金融経済の乖離が始まったのは、金本位制の終焉が大きな要因でした。かつては「金」という希少金属の価値に裏打ちされた貨幣が実体経済の潤滑油的に流通していました。
当時は実体経済が主役で、補完・追随する形で金融経済が存在したのです。1980年代まではそのような関係性で2つの経済が支え合ってきました。
状況が変わったのは1990年代以降。実体経済と金融経済の比率はGDPと金融資産残高の比率で比較されることが多いのですが、1980年には実体経済対金融経済の比率は1:1.09に過ぎませんでした。
両者はほぼ同じ規模の存在だったのです。ところが、その後金融経済が急激な膨張を見せ始めます。1990年には約2倍に、2000年代には約3.5倍に、現在では10倍以上と言われています。
比率が逆転したことにより、経済全体への影響力も逆転し、現在は金融経済が実体経済に大きな影響を与えるようになったのです。
バブル期にはいつも実体経済に対して株価が過剰に反応し、株式価額・名目GDP比率の急上昇がみられることが特徴ですが、過去最高を更新した現在の株式市場は明らかな行き過ぎを示していて、現状は株式バブル期にあることを物語っています。
「実体経済」の軽視は経済危機の引き金
ギリシャや中国だけでなく、現在の世界経済において共通する重要な問題は、「実体経済の軽視」と「金融経済への依存」と言えると思います。
ギリシャは典型的な例ですが、「国債のデフォルト(不履行)」という金融経済の問題が重視され、「緊縮財政」などの実体経済を軽視したことで危機を招きました。
本来であれば、まずは実体経済をデフレから脱却させてGDPの拡大から税収の増額を実現し、その後債務の返済という流れになるべきでした。
現実は、債権問題が原因となり緊縮財政が強行され、実体経済に悪影響を与える結果となりつつあります。日本も人ごとではなく、現在進行中の「アベノミクス」は明らかに「金融経済偏重」の経済政策を取っていて実体経済との乖離が軽視されているように感じられます。
政府主導でバブル経済が形成されつつあり、市場参加者は慎重にマーケットの動向を注視していく必要があります。また一市民としては、実体経済が「金融経済の好景気」を追随していくよう、願っています。