インフレやデフレという言葉は金融市場で日常的に聞く機会の多いものです。それだけインフレやデフレは市場に大きな影響を与えることになるため、基本的な意味をしっかり理解しておく必要があります。この項目ではインフレとデフレについてわかりやすく解説していきたいと思います。
インフレとは・・
インフレとは正確には「インフレーション」と呼びます。インフレという状態は端的に言ってものの価格が上昇し、お金の価値が下がってしまうことをいいます。
ここのところ急激に価格が下がったガソリンの値段はまたしても上昇に転じていますが、たとえば1リッターあたり100円で買えたガソリンが130円になればガソリンの価格、つまり物価が上がり、お金の価値が下がったということになるわけです。
日本でも60年代から70年代はインフレの時代で、ものの値段が上がり、貨幣価値が下がるという時を長く経験してきましたので、物価の価値が高くなると企業には利益が出るようになり、それにあわせて従業員も定期昇給というものが見込まれましたから、社歴が高くなれば確実に従業員の給与も高くなる時代が続いたわけです。
また給料が高くなれば消費者としての消費意欲が高まり、結果として消費がさらに進むことになりますから経済は好循環に推移することになるのです。この状態が想像以上に進んでしまったのがバブルの時期だといえます。
土地の価格が大幅に上昇したことから、努力をしなくても大きなお金をつかむことができた人達が大勢出現し、なぜか高額商品も跳ぶように売れ、余ったお金は株式市場に入りこんであらゆる株価が上昇するという、今から考えれば夢のような時代が継続したわけです。
逆にデフレとは・・・
デフレ、「デフレーション」はインフレとは逆さまの状況が示現することをいいます。インフレとは違って物価が下落し、お金の価値のほうが上がってしまう状態がデフレなのです。
前述のガソリン価格でいえば1リッター130円だったものがどんどん下落して90円になってしまうといった状況は明らかにデフレ状況といえます。
こうなると、あらゆるモノは安く買えるようになり、初期の段階は諸費が増えるため、一時的に企業に利益がもたらされますから、一部の企業では従業員の給与も増えることになります。
しかし、デフレの状態が慢性化しますと消費者はより安いものを求めるようになり、企業の利益は減少に転じることになります。価格を安くすることで競争することになりますから利益もでなくなり、従業員の休業は上がらなくなり、何年働いても自動的に昇給することはなくなります。
ここ20年ぐらいの企業における従業員の給与が伸び悩んだのはまさにデフレのおかげで、一度下げた物価はどんどんどん安くなる傾向に陥ってしまいます。先進国の中でも日本が長く経験した「デフレスパイラル」というものがまさにこの状態をあらわす言葉なのです。
今や世界的なデフレ社会が示現
さて、世界経済に目を移してみますと、グローバル化は結果として先進主要国の世界同時デフレを示現するようになってきています。
消費といっても高度成長期のように新しくでる製品はほとんど今までに存在しなかったものが多かったため、様々な市場が拡大することになりました。
しかし、資本主義も成熟化してくるとサービスにはお金を使うようにはなりますが、昔のように製品が飛ぶように売れる社会ではなくなり、気がつくと欧州も米国もディスインフレでデフレの一歩手前、長きにわたってデフレを経験してきた日本も一旦はデフレを抜けたように見えましたが、実態としてはまだ片足を突っ込んだまま程度の状況が推移しているのが現実です。
それが証拠には米国から日本、欧州とこれまでには考えられなかったような「
金融緩和」で市場に資金を投入しているわけですから、本来インフレの定義から言えば貨幣価値が下がって物価が上がってもいいようなものです。
しかし、実際は原油価格が下落したたけでデフレに突入しかねないほど物価は上がらない状態であり、放置しておけばどの先進国もデフレ経済に陥るリスクに常に直面しているのが現実なのです。
こうなると世界的に経済は停滞し、同時多発的に不景気になってしまうことも想定しなくてはならないため、各国の「
中央銀行」はあの手この手で、そうした状況から抜け出すための手立てを打っているのです。
インフレには悪いインフレもあります
こうしてみてくると、デフレよりはインフレのほうが経済にとってはプラスになるような印象を持たれると思いますが、インフレは行き過ぎるととんでもない状態に陥り、新たな問題を引き起こすことになります。
たとえば前述のガソリン価格が1リッター1000円などになってしまいますと、お金の価値はほぼ10分の1に下落することになり、貨幣価値はどんどん下がることになります。
これではほとんどの消費者はほしいものが買えなくなり、お金はとうとう回らなくなる状況に陥り経済は結果として破綻することになってしまうのです。
直近では南米の「ベネズエラ」などの国がまさにこの状態に陥っており、物価上昇率は数百パーセントといった驚異的なレベルにまで跳ね上がることになります。
これが
「ハイパーインフレ」といわれるものです。また需要が伸びないのにモノの価格だけ上昇するという「
スタグフレーション」という状況も悪いインフレの典型的な状態となります。
直近の日本は既にこうした状況に近いのではないかと指摘するエコノミストも存在しており、予断を許さない状態にも見えます。
経済のことを考えれば適度なインフレが持続することが望ましい
さてインフレとデフレのどちらが金融市場での投資にとっては最適なのかと聞かれれば「適度なインフレが持続すること」がもっとも望ましいということができます。
日米の「
中央銀行」は名目物価が2%程度上昇することを大きな目標に掲げている点を考えても、ゆるやかなインフレを先進国の「
中央銀行」が目指していることは明白です。
ただ、実態としてはなかなかこうした数字を達成させることができず、これだけ湯水のように「
金融緩和」で資金を投入しても実現しないということは、やはりどこかでデフレに近い構造がそのまま残っていることが推測できる状態なのです。
過去の10年間は中国などの新興国が先進国での需要の停滞を大きく補って成長したことから、世界経済は活性化することになりましたが、その中国もすっかり景気の減速感が鮮明になってきたことから、世界的なデフレ懸念がくすぶり続けているとも言えるのです。
現代のような各国の経済が密接に結びつくグローバル社会では特定の国だけの経済状況がいいままではいられないのが実情になっており、ある意味で経済の舵取りが非常に難しいところにきていることがわかります。
過去の世界的なデフレ脱却は飛んでもない手法で克服してきている
これまで19世紀から20世紀、世界的に経済が鈍化しデフレに直面することは何度もありましたが、こうしたときにはこれまで主要国は戦争を行うことで解決させてきたところがあります。
二度にわたる世界大戦もベースになっているのは、経済の問題であったとい言うことができます。
しかし今や戦争で経済の停滞から脱却するなどということは考えられず、「
G20」で主要国が集まっても利害の調整はなかなかつかずに、はっきりとした方向性を共有することができない状況にあるのです。ある意味で21世紀の世界経済はさらに難しい局面に直面していることがよくわかります。
インフレかデフレかという問題は、このようにかなり大きなマクロ経済の問題にダイレクトにつながるファクターなのだということはぜひ理解しておいていただきたいと思います。