今回は、21世紀に大きく台頭している中国、その通貨である人民元についての基本的な認識と今後についての話をしていきたいと思います。
為替の決定要因は、貿易相手国
人民元レートというのは御覧になったことがない方がほとんどだと思いますが、実際、日本の貿易相手国は20世紀が断トツのアメリカが1位でしたが、現在は中国が日本の貿易相手トップになります。
つまり、日本国内では中国製品であふれており、中国の通貨レートが安くなれば、日本の物価は下落し、そして高くなれば、安くなるということがおわかりになると思います。このように貿易は活発なのですが、投資ではどうなのか、ということです。
時代遅れなのか斬新なのか?人民元相場
みなさんは義務教育で、固定相場というのを学習していると思います。ドル円の場合は1971年くらいまで固定相場だったことはご存知だと思います。
この固定相場崩壊時にこの固定相場レートは308円になったり、270円になっていますので、この固定レートが360円からいきなり変動相場になったという認識は間違いになります。
少し話が逸れましたが、では、固定相場というのは一切、そのレートが動かなかったのかといえば、そうではありません。固定相場というのは、実は、金を背景にそのレートを定めており、そのレートは現在の変動為替相場のように常に動いていたのです。
要するに輸出が多い国ではより多くの外貨を獲得することができますので、金を多く保有することができます。そして輸入が多い国では金を売却してその輸入品の代金を支払うのです。
つまり、金の保有量によって、その為替レートが変動していたのです。一般向けには1ドルと360円となっていましたが、その輸出入によって、金の保有量が変わります。
その結果、レートが動かないように各中央銀行はレートが動かないようにしていたというのが固定レートの本来の意味になります。
日本の場合は、その誤差が1パーセント以上、つまり、360円から1パーセント動くことまでは許容範囲だったのですが、それ以上、動くと、日本銀行が金の売買によってその為替レートを調節していたのです。
ですから、固定相場というと全く変動をしない、というイメージを抱くかもしれませんが、実際は、日々、この為替レートは変動をしていたのです。
中国の人民元相場は、管理フロート制ですとか、ドルペッグ制度などと言われていますが、実質は固定相場と同じようなものです。要するに、中国人民元相場は、共産党が指示した値段から3パーセント以内の上下動に収めるようにするというのが通常です。
つまり、共産党が「したい」為替レートにするようにマーケットを調整しているだけの話であって、やっていることは固定相場と一緒です。しかも、日本の1ドル360円というように標準レートがあるのではなく、中国共産党にとって都合の良いレートを介入や当局発表によって為替レートを操作するのです。
しかし、中国国内からの資産が流出するときなどは、いくら当局の想定誘導レートがあっても通貨が安くなるのは、1970年代の極貧の中国と現在の経済成長した中国では違います。
現在の流出量というのは、手に負えない状況になるときもあり、3パーセント以上値段が変動をすると値段を固定してしまう、という私たち自由主義、資本主義世界の人間からみればインチキ以外、何ものでもないのです。
テレビや新聞は、これらのことを知っていても何も言わないのは、中国の取引相手などを配慮したものでしょう。つまり固定相場のようにレートを固定したものではなく、実質、共産党にとって都合の良いレートに近づける相場、これは固定相場とは言いませんので、管理フロート制などという意味不明なネーミングになるのです。
では、今のトランプさんが、このような人民元レートに対して、為替操作国の認定を解くことはあり得るでしょうか? あり得る訳がないですよね。
人民元の今の立場
2016年に中国人民元はIMFのバスケット通貨入りを果たしました。これは1970年代以降にアメリカの国力がベトナム戦争などによって落ち、万が一の際には、ドルが紙切れになる可能性が出てきたのです。
ご存知のように世界の基軸通貨はドルですので、このドルが紙切れになったときには、世界経済が大混乱を起こすことは想像に難くないと思います。
つまりドルの代替通貨ということでバスケット通貨、SDRが誕生したのです。このSDR、バスケット通貨というのはドルに万が一になったときの保険になります。
このように考えていくと、ドルに万が一のこともあるかもしれませんが、そのほかの主要通貨、ユーロ、ポンド、円、スイスフランなども万が一のことがあるかもしれません。しかし、各国の外貨準備をいろいろなバリエーションがあれば、全部がつぶれるということはないだろう、という発想です。
中国は近年の経済発展によって、国際貿易における地位が相対的に非常に高くなり、そのバスケット通貨入りを果たしたのです。このバスケット通貨入りをしたことによって、各国は、このバスケット通貨を満遍なく保有しなければいけないことになったのです。
このIMFのバスケット通貨入りを推進したのはIMFのラガルド専務理事になりますが、このバスケット通貨入りを果たしたときに人民元の自由化も推進するように、と苦言を呈したことも、忘れてはなりません。
このバスケット通貨入りを果たすということは各国の外貨準備に人民元もある程度保有しなければいけないことになりますので、人民元は国際通貨の仲間入りをしたといえると思います。
つまり人民元は中国共産党にとって国際化は悲願でしたので、これを達成したことによって中国経済が発展できることが期待できるということになります。
なぜなら、日本や中国の外貨準備には大量のアメリカ債券があり、これはとりもなおさず、日本と中国がアメリカの借金を肩代わりしているということになるのです。ということは、他国に中国の借金を肩代わりしてもらい、そのお金を中国経済発展のための投資に回せるということです。
この背景の延長にあるのがAIIBであり、AIIBによって各国から投資を募り、それを中華圏構想投資に回しているのが実態になります。日本のアジア開発銀行やIMF、などとかなり性格が異なるものであり、日本とアメリカがAIIBに加入しないのはそれなりの意味のあることです。
ほかの国、ヨーロッパを含めてみな、参加をしたのは中国経済の発展に伴い、チャイナマネーが自国経済を潤しますので加盟をした、というだけの話です。決して、中国共産党に同意をしたという意味ではありません。
当時のヨーロッパは南欧債務危機直後であり、経済が青色吐息であったことを勘案すれば、当然の加入になると思います。またオバマ大統領の意味不明な外交ということもあったでしょう。
オバマ大統領は不用意に東側共産圏各国と近づき、友好関係を構築したので、それに反発をした西側、ユーロを中心とした、はアメリカが助けてくれないのであれば、中国を頼ろう、となっただけの話です。これがAIIB加盟問題の真相になると思います。
現在のトルコやイラン、イスラエルの問題も、オバマ政権のダメな部分の修正であり、決して単なるトランプさんのわがままととらえるべきではありません。
むしろ非難の多いトランプさんですが、西側諸国からみればオバマさんよりはまし、という評価が普通です。あの言動ですので、露骨に嫌悪感を示す政府代表もいるだけの話です。
このように、人民元はみなさんの中には東アジア通貨のローカル通貨という意識の方もいらっしゃるかもしれませんが立派な国際通貨に2016年になったのです。
人民元の今後
世界二位の経済大国に中国はなりますので、貿易通貨としてこれから存在感を示していくことは誰でも想像ができることでしょう。
しかし、この為替レートが中国共産党によって恣意的に決定することができる為替レートというのは私たち西側諸国の自由主義、資本主義の人間にとっては、投資通貨としては危険極まりならない通貨、ということができます。
通常、景気が悪くなれば人民元安になり、そして良くなれば人民高になるのが通常の為替レートになります。ところが景気が悪くても、本来は人民元安になるはずなのが、共産党が中国にとって人民元高のほうが都合よければ人民元高にしてしまう通貨など予想などしようがない、ということです。
ともかく中国という国は共産党がOKといえば、なんでも通る国ですので、人民元は金利が高いのですから投資対象に加えようとしている方も、すでにしてしまっている方も危険であるとしか言いようがありません。
通常は国際通貨と言えば、投資適格商品のようなイメージでしょうが、決してそんなことはないと思います。そして、今後の人民元予想などはよほどのことがない限り、その予想などはめったにするものではない、というのが専門家共通の意見になります。
人民元の最大の可能性
アメリカは、リーマンショックから10年が経過をしてようやく本格的な景気の立ち上がりを起こしていますが、一方で、そのアメリカが景気が回復をしている裏では、今まで、アメリカが不景気なので、新興国に流れていた資本が、アメリカの回復によって、新興国から志保が流出する、ということが起こっています。
最近、経済不振が伝えられる、ブラジル、アルゼンチン、トルコなどはドル高の被害者といっても過言ではありません。つまりアメリカの好景気と不況によって、新興国経済は大きな、影響を被るのです。
その新興国が、景気が良くても、資本がアメリカに流出するようなことになれば一気にトルコやアルゼンチン、ブラジルのように不景気にすぐになってしまうのです。
ところがドルと人民元の2つの基軸通貨になることを考えてみてください。アメリカが不景気になれば、一気に新興国に資本が流れ込みます。しかし、反対に景気が良くなれば、アメリカに向けて資本が流出することになります。加えて、アメリカの景気が良ければ、ドル高になります。
通常、新興国は自国通貨がIMFのバスケット通貨のSDRではありませんので借金はドルですることになります。今の状態はドル高に加えて、アメリカの金利が上昇していますので二重苦になります。
ところが二大基軸通貨制度にすると、ドルが高くなった場合には人民元は安くなりますので、少なくても通貨高によって借金が増大するようなことはありません。アメリカに資金が流出して困ったときに、人民元から借金をすると、新興国がアメリカの景気の好不況に影響されることはありません。
実際に今、それを筆頭でやっているのはトルコであり、そのほかの新興国は、金を保有することによって、アメリカ景気の浮沈によって自国経済の発展が阻害されるような事態を避けようとする試みがあります。
実際、ロシアなどは近年、大きく、金保有を増やしており、これはロシア経済が原油価格に左右される結果なのですが、近年は原油価格が上下に振れても、経済の落ち込みはひどくなくなったということが起きています。危機に陥った国では、アメリカドルは高く、金利も高いので借りることはできませんが相対的に安くなった人民元というのは非常に魅力的な借り入れ先になります。
国際社会では、このドルの上下動によって、いつも新興国危機が起こっており、その結果が今回のアルゼンチンやトルコの問題になるのです。世界にとっては、ドル安のほうが好都合になりますが、その場合、投資家はドルに投資をしても、通貨が安くなっていきますので、ドルに投資をしません。
そして、ドルが安くなった場合、資源や食料など自然に起因する原料、素材の値段が高騰することになります。そうなると高騰した原料、素材を買うことができないという循環に陥る可能性があり、一概にどちらが良いということができません。
この場合、国際的な取り組みで二大基軸通貨になるのではなく、自然の流れとしてアメリカから借金をしたままですと、借入コストが積みあがるので苦肉の策として中国に借りるといケースが普通になってきており、この結果、新興国経済がアメリカ経済に左右されにくいという状態になりつつあると思います。
つまり人民元は実体経済では、非常に便利な通貨なのですが、投資商品としてはどちらの方向に行くのかさっぱりわからない通貨ですので、投資には不適格な商品なのです。