この土日にトランプ大統領が、鉄鋼、アルミなどに対して関税を高くする、と宣言をしたことによって市場に不安心理が働いていると解説するメディアが増えています。そのニュースを聞いて、一番、最初に思い浮かべるのが中国の鉄鋼過剰生産ということになると思います。
何度もお話しをしているように、中国は共産国家の計画経済ですので、なんでも作り過ぎる傾向にあります。生産が過剰になっても、作り続けるのは10年前から一緒です。
過去に記憶にあるだけで、アルミ、銅、太陽光パネルなどを作り過ぎ、そこで国際的な摩擦を繰り返しています。この鉄鋼の過剰生産は2年ほど前から問題になっており、ある程度問題は緩和しています。ですから、この問題、実は鉄鋼の過剰生産問題ではなく、本当のところは車業界の問題になるのです。
日本の鉄鋼問題
神戸製鋼の社長、会長が退任をするというニュースが今更、出てきていますが、あまり関係はないと思います。問題なのは日本の鉄鋼というのは、軍需や兵器にも使われるのですが、その使用分野は主に車になるのです。
つまり日本の鉄鋼というのは主に、車に使われるような高品質であり、世界のほとんどの車メーカーは日本の鉄鋼供給がなければ車の生産ができない、ということなのです。
ほかにも韓国の鉄鋼を使うケースもありますが、基本的には日本製のものを車の製造に使うのです。日本の車メーカーがほとんどアメリカの現地生産であるのは、アメリカ国内で高品質の鉄鋼を供給できる体制であるから、現地生産をしているのです。
ですから、今回のトランプ大統領の鉄鋼への輸入制限措置というのは主に、車製造国への処置であることは明らかなのです。つまり鉄鋼は本質的な問題ではなく「車」の問題になるのです。
アメリカの車
アメリカの自動車メーカーといえば、フォード、クライスラー、GMなどがありますが、実はこの三大メーカーは非常な苦境に陥っています。なぜなら、売り上げなどは伸びているのですが生産性が非常に低い、つまり利益が大して出ないので、今後、起こるであろう、電気自動車や環境規制に対する設備投資が全くできない状況なのです。
ですから、トランプは日本がアメリカ車に対して過大な関税障壁を行っているとのことですが、実際は、日本がアメリカ車に対しての輸入関税はほぼゼロになっています。
要するに単なるイチャモンというレベルなのです。一方トランプからすれば、アメリカの車業界をなんでもいから救いたいとう思惑があります。
つまり、今回の鉄鋼、アルミの問題というのは、本来は車の問題になるのです。その証拠にドイツの党員選挙の開票前日にこのような発表を行っています。EUはその発表に対して、まだどうなるかもわからないのにすぐさま報復措置をすぐさま発表しています。
言わずとしれたヨーロッパはドイツを中心とした自動車立国です。しかも、今回の発表前に環境規制をヨーロッパ全体で電気自動車の普及を目指す発表を相次いで発表しています。ところがアメリカの自動車業界にはその研究開発や設備投資をするお金がないということです。
つまり、日本、中国、ヨーロッパは電気自動車や環境規制に対して投資するお金はあるが、アメリカのメーカーにはその体力がない。今後、本当に自動車がガソリンカーから電気自動車、EVになるのであれば、世界の車需要が激変する可能性があるのです。
あなたのお持ちのガソリンカーが全部、EVに変わったらその需要で車メーカーはウハウハなのにアメリカのメーカーはそこに加わることができないとすれば、トランプがめちゃくちゃなことを言いだしても全く不思議なことではありません。
まさに、私が以前にこれから世界は車の問題が跋扈するよ、と言っていた通りの展開です。トヨタの社長がここから生き残り戦争になると言ったのはこういう意味です。よく覚えておいてほしいのは、アメリカのEVメーカーというのは万年赤字のテスラではなくアマゾンです
。なぜ、トヨタがアマゾンと業務提携をするのか、これで意味がわかりましたでしょうか?もう自動車業界は仁義なき戦いに突入しているのです。この問題は鉄鋼、アルミの問題ではなく自動車の問題なのです。勘違いをしてはいけません。
(この記事を書いた人:角野 實)