アメリカには物価連動国債というものは4か月に一度発行され、その入札が先週行われました。この物価連動国債というのは、デフレが進行をしているとその金利はマイナスになり、インフレになると、金利はプラスとなるものです。
要するに物価がマイナス水準であればそこに国債金利を足したものが、TIPS、物価連動国債のクーポン、利率になるのです。物価が上昇すれば、当然、クーポンはプラスになります。
この利回りをみると、ようやく、アメリカは去年デフレを脱し、今年からインフレが加速していることが確認できます。
つまり、年1回であった利上げを去年から利上げ回数を増やしたのは「アメリカの国債金利の正常化」達成したからであって、この金利の正常化状態を去年は確実にするためにドル安を加速させたと、政策的な思惑があったと思います。
今後のこのTIPSの金利を予想すると、誰もが今後もこの金利は上昇していくであろうと予想ができると思います。モメンタムというのは私はあまり好きではないのですが、一度、決まったトレンドというのは継続するということです。
先週の株価に対してのコメント
先週末、アメリカ株が急落をし、そのコメントの殆どがアメリカ国債の10年物が3パーセント台に乗ったことにより、アメリカ企業の収益が減少をすると予想されるため、下がったとのコメントでした。
先ず、経済に対するインフレ、デフレの効果としては、インフレが物価上昇とイコールと考えると、物価が上昇するということはお金の価値が減ることになります。
つまり、モノとお金の関係はインフレですと、モノ>お金になります。デフレですとモノ<お金になります。このモノの中には株も含まれ、インフレですと現金を持つよりも株を持ったほうが得になりますので、株価は上昇するのです。
ウォーレンバッフェットのご託宣によれば、この経済危機を乗り切れば必ずインフレが起こる、と当たり前のことを言っています。つまり、金利が上昇をして株価が下がるということはあり得ないことになります。
短期的にはもちろん、こういった場面もあると思いますが、長い目でみれば長期金利が上昇して株価が下落ということはあり得ず、株価は上昇することになります。つまり、2月に株価が急落したことの訂正は終了したと考えることができます。
インフレは通貨安
その国家がインフレになると、お金<モノになるのですから相対的には通貨安になります。これは、経済学のどの教科書にも書かれていることになりますし、常識で考えてもインフレになればお金の価値は減りますので、株や商品、不動産などのものを投資家は買う、という当然の帰結なのです。
問題なのは、これを為替相場で考えた場合に、為替レートが絶対的な数字であると考えているアホな専門家の存在です。つまり、今回の場合はアメリカですので、アメリカはTIPS国債からデフレ脱却が確認をされた。
つまり物価上昇の局面にあるから、ドル安だ、と叫ぶ専門家が必ずいるということになります。何度も解説している通り、為替相場というのは相対的なものであって、ドル円であればアメリカという比較対象があって初めて、ドル円レートが成立するのです。
今回の場合、アメリカの消費者物価指数1.9と日本の消費者物価指数0.9を比較してアメリカ>日本だからドル安円高という結論を出さなければいけません。
こういうロジックによって、ドル円は円高だ、という結論に至るのはまだ許せる範囲なのですが、アメリカ単体だけをみて、インフレだからドル安であるという専門家は、アホというよりも無知の恥さらしなのです。
この見方は比較対象である円の物価を比較していませんので、無知なのです。為替相場を評価する場合は、必ず比較対象をみつけて、その分析結果を予想に反映させなければいけません。
モーサテなどの経済報道番組に出ている専門家連中にその視点をもっているのは、私からみればいません。つまり、グラフなどで説明しているときに、金融機関の人間というのはコンプライアンスに敏感なので、比較対象からの検証結果を本能的に言い訳として言うものなのです。
その説明がアメリカ単体からの分析であっても、日本が横ばいですので、とか、言外に比較していますよ、ということを言うのです。でも、連中には一切、そういうところがないから、専門家と言えるレベルではない、と私は判断をしています。
要するに、為替相場の基本の「キ」も知らないのに、知ったかぶりによって解説をしているといつも感じます。話が逸れましたが、為替、FXというものは、株のように単体で見るのではなく比較でみるのです。その比較は金利差のように足し算、引き算で出されるのではなく、掛け算、割り算で帰結をするのです。
このことを読者の皆さんは頭にたたきこんでほしいと思います。今回の場合、インフレ率、消費者物価指数のことを別名インフレ指数とも呼ぶのですが、アメリカ>日本なのですから、ドル安円高に通常ならならなければいけないのです。
しかし、去年一年間、順調にアメリカ経済が上伸をしていたのですから、アメリカドルは単体ではドル高にならなければいけないはずなのに、実際はドル安だったのです。
この背景に金利を正常化するために意図的にドル安にしたという仮説を組み立てると、金利が正常化した現在、無理にドル安にする必要がない、ということです。
つまり現在のドル円相場が正常であるのであれば、円高にいかなくてはいけないのですが、去年1年間、本来はドル高にならないといけないものを、わざわざ、ドル安にしたのですから、今年はドル高になるだろう、と考えればいいのです。この細かいテクニカルの部分に関しては、また折に触れて解説します。
(この記事を書いた人:角野 實)