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2015年8月24日。FXの世界で長く語り継がれるであろう大変動が発生しました。
つい2分前まで119円近辺にあったドル円のレートが一気に116円まで下落したのです。
ユーロドルなど他の通貨ペアも大きく動いたのですが、日本において多くのFX投資家が取引しているドル円の大暴落は、大きな衝撃をもって受け止められました。
一体何があったのでしょうか。その背景を探るとともに、このような大暴落に直面した時、FXの投資家としてできることは何か考えます。
特定のきっかけはない?
今回の変動で特筆すべきなのは、「なにか明確な引き金があったというわけではない」ということ。
過去にはリーマン・ショック、ギリシャショック、あるいは東日本大震災など、大きな変動の際には必ず引き金となる出来事がありました。今回は一応、「中国株の下落」が理由としてあてがわれる分析が多いですが、中国株の下落自体は何も目新しい材料ではなく、ここ1,2ヶ月ずっとくすぶっている問題です。ですから、これだけに原因を求めるのはやや無理があるでしょう。
私個人の考えとしては、根底にあるのは「アメリカの利上げ観測」による投資資金の巻き戻しであり、そこに中国株の下落が乗っかり、また重要なサポートラインを割り込んだことで下落が加速したと見ています。
アメリカの利上げ観測とは?
皆さんご存知の通り、長期に渡ったQE政策を終了したアメリカは、2014年後半以来利上げのタイミングを探っています。FRBのイエレン議長が「年内利上げが適切」と繰り返し発言をしていることもあり、2015年9月、あるいは12月の利上げが有力視されています。
そう、早ければ一ヶ月以内で利上げが予定されているのです。アメリカの利上げが始まると起きると言われているのは、新興国を中心とした高金利国からの資金の巻き戻しです。また、アメリカの株式からも資金が引きやすいと言われています。
金利が上がればドル資金の調達にこれまで以上のコストがかかることになるからです。
FX相場はアメリカの”利上げでドル高”とは限らない
FX市場に対しての影響はどう予想されているのでしょうか。一般的に金利の上昇は当該国通貨の買いになりやすいというのが定説です。
銀行預金を考えていただければ分かりやすいでしょう。利息がたくさんつく銀行にはお金が集まりますよね?それと同じ理屈です。アメリカであればドルが上昇すると考えられがちですが、利上げがアメリカ経済の足を引っ張るとみなされれば、株安ドル安が進行する可能性も十分に考えられるのです。
最近ではドル高がアメリカの多国籍企業の業績に悪影響を及ぼしているという声も強くなっていますから、これ以上のドル高を容認しないのではないかという声もあります。
やや話がそれましたが、最近のFX相場で起きている現象は、アメリカの利上げを見据えた新興国からの資金引き上げが、急速に進行していることが原因であろうと推測されるのです。
そして、この現象と同時に、対円、ユーロでドル安が進行しているのは、「中国経済の減速は想定以上であり、世界経済にも悪い影響を及ぼす。」という懸念が影響しているのでしょう。
FX相場、暴落の予兆は前週からあった
さて、前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、本題である8月24日を中心とするFX相場の大変動について話を移しましょう。上述のようなアメリカの利上げ観測、及び中国株の下落を受けて、相場全体がいわゆる「リスクオフ」の状態になっていました。
具体的に言えば、株式は売られ、FX相場ではドルに対して新興国通貨は売られ、円、ユーロは買われる動きです。ドル円が明確に売られ始めたのは8月20日3時(日本時間)に発表された、FOMCの議事録以降です。
7月28日(火)から29日(水)に行われたFOMCでは、「利上げの条件はまだ満たしていない」「利上げにはさらなる証拠が必要」「中国経済を懸念」などの表現がありました。
2015年に入ってからのアメリカの経済指標は、はたから見れば決して弱い印象はありません。
特に、イエレン議長が重視していると言われている雇用関係の指標は、賃金の伸びに若干物足りなさはあるものの、それ以外は極めて良好であり、果たしてこれが利上げを見送る理由になるのかという声も強まっていました。
そのような状況の中で利上げに慎重な内容が明らかになったわけですから、9月の利上げを見込んでドルを買っていた人々が失望してドルを売る動きがありました。こちらの売りは数時間ほどで収まるのですが、今度は中国株がやや不安定な動きを見せ始めます。
中国の代表的な株価指数である「上海総合指数」は、20日に-3.4%、21日には-4.2%を記録します。
この下落で、機関投資家など多くのFXトレーダーが注目すると言われる、「200日移動平均線(200日線)」を割り込んでしまいました。ここを割り込むと投資家心理が変わると言われる200日線は、長期にわたって中国株をサポートしてきました。
大幅な下落が注目された2015年7月のFX相場でもです。それを割り込んでしまったことで元々良かったわけではない投資家の心理がさらに悲観的になり、株売り、ドル売りが加速。FOMC議事録の公開以降124円近辺で推移していたドル円は、21日には一時122円割れの水準まで下落します。
そして週が明けて24日月曜日。上海株-8.5%、日経平均、ダウ先物の大幅下落を眺めながら、ドル円はズルズルと下落。120.7付近にあった200日線を割り込んでからの下落は凄まじく、その場でFX相場を見ていた人なら言葉も出ないほどの衝撃を受けたのではないでしょうか。
私自身、このような大きな変動は経験がなく、目の前で1円単位でレートが変わるFX相場をただただ見守るばかり。116円まで下落した後ある程度戻り、さすがに落ち着いたであろう雰囲気になってから、ようやく冷静さを取り戻して取引を始めました。
そこから金曜日までの4日でFX相場は急反発し、上海、ダウ、日経の株価指数も回復。ドル円は29日のクローズ時点で121.5円付近まで戻しました。
今回のFX相場において、逃れるポイントはあったか
ドル円で見れば、一週間かけてほぼ同じ水準まで戻ってきました。仮にドル円の買いを持ち続けていたとしたら、わずかなマイナスで済む水準です。ただしこれは結果論であり、目の前であの暴落を見せつけられても手放さないのはかなりの勇気でしょう。
それ以前に逃げるポイントを考えるのであれば、200日線を割った120.7付近でしょう。これも結果論なのですが、いずれの市場も200日線を割ったあたりから下落が加速しました。ドル円が上昇基調を維持するという見込みは割と共通した認識でしたから、「いずれ止まるだろう」という思いで、ここで手放さず持ちこたえようとした方も多かったでしょう。
今回の教訓としては、いくら先々上昇する見通しだとしても、「ここを割れたら危ない」というポイントは把握しておく必要があるということです。もちろん、逆もしかりですね。
FX投資では、失敗を乗り越えて経験が増し、そして勝てるようになる
今回の大暴落を受けて、SNSには悲鳴に似たつぶやきや、中には強制決済(ロスカット)の画像を上げるFXの個人投資家さんもいらっしゃいました。多くの人が非常に辛い経験をしたことは間違いありません。今後もFX投資を続けていくのであれば、この出来事をプラスに変えていくしかありません。
成功体験を積み重ねていくことも大事ですが、人は失敗からのほうがより多くのことを学ぶものではないでしょうか。
今回の出来事は、最近の個人投資家がFXという形で相場に参入して以来最大とも言える相場だったと思います。このようなFX相場はそうそう起こるものではありませんが、この経験が個人投資家の皆さんを強くすることを願います。